第189話 グラップラーのスキル

「ようやく到着したな」

「この辺りでホルスタインを飼うッスか? あ、鳥が居るッス」

「あぁ、そのつもりだが……何かマズいか?」


 スノーウィから貰ったホルスタインという乳牛を、東北東エリアへ連れて来たのだが、ビビアナが困った表情を浮かべている。

 もちろん今は牛舎が無く、後で建ててもらうつもりだとういう話をすると、訳を話してくれた。


「そういう事ではないッス。自分も牛を育てた事がある訳ではないッスが、広い草原で育てるものだと、この牛を選んでくれた人が言っていたッス」

「なるほど。では、先ずこの辺りの壁を広げよう。それから……ツバキ。リディアか、リディアの人形たちを呼んできてくれないか?」

「承知致しました。少しお待ちを。ついでに、こちらの海産物の箱をお渡ししてきます」


 すぐにツバキが動いてくれたので、その間に俺は壁を広げていく。


「そういえば、先程の勝負の際にも石を生み出していたッスけど、それはどういうスキルッスか?」

「これか? 精霊魔法だ。元々使えた訳ではないのだが、俺は他の人のスキルをランダム? で使えるようになるスキルを持っているんだ」

「そうなんスね? では、自分のスキルも要るッスか? 自分、先程も伝えた通り、グラップラーっていうジョブッス。体術系……特に組み技系のスキルを持っているので、何かで武器を手放したり、武器を持っていない時に襲われたりした時に、役立つかもしれないッス」

「なるほど。ありがたいが……その、いいのか?」

「ん? 逆に何かダメな事があるッスか?」

「いや、説明していなかったが、その、スキルをもらうには体液……こほん。キスする必要があってだな」


 キスという言葉を聞いた途端に、ビビアナの顔が真っ赤に染まる。

 いやまぁ、ほんの数分前に出会ったばかりだからな。

 何を言っているんだ? と思われても仕方が無いだろう。

 しかし、ビビアナが俺を上目遣いでジッと見つめ、口を開く。


「そ、その、自分はアレックス様の妻になるッス。そうなれば子供も作るし、キスくらい大丈夫……ッス」

「無理にしなくても良いんだ。そもそも、さっきの妻になるという話も……」

「それは絶対に守るッス! 熊耳族の掟ッス! 族長の娘として、従わねば他の者に示しが付かないッス!」

「族長の娘!? いや、それって大丈夫なのか? 後々、いろいろと問題になる気がするんだが」


 ハッキリ言って嫌な予感しかしない。

 スノーウィの国と争う事は無いと思うが、その中の一種族から、娘を奪ったと敵視されるのは避けたいのだが。

 そんな事を考えている内に、ビビアナが俺に抱きつきながら、顔を上げ、目を閉じていた。


「あ、アレックス様。じ、自分からは恥ずかしいし、背が届かないので、どうかアレックス様から自分の初めてをもらって欲しいッス」

「いや、ビビアナ……」

「お願いするッス。実は今も恥ずかしくて倒れてしまいそうッス」


 くっ……ここまでさせて、やっぱり無しというのは、逆に恥をかかせてしまうか。


「じゃあ、いいかい? ビビアナ……」


 ビビアナがコクンと無言で頷いたので、顔を近づけ、舌を……


「~~~~っ!? んぅ……はふ。く、口の中に何を入れたッスか? 何だか、凄かったッス!」

「いや、その……唇を重ねるだけではダメで、今みたいに、ビビアナから俺に舌を入れてもらわないとダメなんだ」

「えぇぇぇ……な、何スか、そのエッチなスキルは!?」


 それを俺に言われても困るのだが、ここまでしたのだからと、ビビアナが頑張ってくれる事に。


「……一族の掟のせいで、こんな年齢でキスの一つもした事も無い自分ッスが、どうぞ末永くよろしくッス。あ、アレックス様……」


 背が届かないと言うので、ビビアナを抱き上げると、物凄く恥ずかしそうにキスしてきて、恐る恐る……あ、何か強くなった気がする。

 おそらく、無事にエクストラスキルが発動したな。

 そう思った直後、


「アレックスさん……私を呼んだのは、その女の子とのキスを見せつける為だったのですか?」

「アレックス様。私も抱きしめて欲しいです」

「み、見られてたッス! は、恥ずかしいッスぅぅぅっ!」


 すぐ近くにジト目のリディアと、羨ましそうにするツバキが立っていた。

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