挿話43 序列を気にする天使族のユーディット

 遠い遠い昔の事。

 たぶん百年くらいは経っていると思うけど、お母さんの言いつけを破って、私は一人で人間の街に出掛け……悪い人間に捕まった。

 鉄の壁と魔法の結界によって物理と魔法の双方で閉じ込められ、ただただ聖水を作らされる日々が、無限に続く。

 唯一の救いは、牢に運ばれる食事や水が小さな隙間から差し出され、聖水も床に空いた小さな穴へ注ぐだけだから、聖水を作る所を誰かに見られたりしてないという事くらいだろうか。

 拳大の小さな空気穴から空を見る事だけが、唯一聖水生成に関与しない、私に出来る事だった。


「……っていう感じかな」

「なるほど。それは大変な目に遭いましたね」


 ソフィという幼い――といっても、私と同じくらいの背丈だけど――人間族の少女と一緒に、広いお風呂で文字通り羽を伸ばしながら、ここへ来るまでの事を聞かれたので、話してみた。

 ……うん。誰かとお話し出来るのが嬉しい。

 あと、お風呂に入れるなんて夢のよう。

 今日は、空まで飛んだしね。

 ただ久々過ぎて、上昇するのが精一杯だったけど、小さな村を見つけて、アレックスには褒めてもらえたもんね。

 ちなみに、そのアレックスは、不思議なスキルで地獄のような日々から私を助け出してくれた恩人。

 今まで仕方なく聖水を提供していたけど、アレックスの為なら、喜んで作ろうと思う。


「ところで、ソフィ。空から見た感じだと、ここは周囲に何もない場所だったけど、ソフィもアレックスのスキルで来たの?」

「いいえ。私は元よりマスターにお仕えしておりますので」

「……アレックスと一緒に来たって事?」

「その通りです」


 なるほど。確か、アレックスやエリーは別の街から転送装置で来たって言っていたから、ソフィも同じなのだろう。

 でもソフィは生まれた時からアレックスに仕える者として育てられていたって事は……アレックスは人間族の王子様とか貴族って事!?

 もしもアレックスが王子様なら、生まれ故郷の国へ戻った時に、私のお母さんやお父さんを探してくれるかも!

 というか、アレックスならきっと探してくれるはず!

 アテもなく一人で探しても、また捕まっちゃうかもしれないし、これからはアレックスの傍にいよーっと。


 ……待って。自分で言うのもなんだけど、私は可愛い。

 もしかしたら、傍に居る内にアレックスが私の事を好きになって、プロポーズされて……人間族のお姫様になっちゃうかも!

 それはそれで良いんだけど、メイリンたちが既にアレックスのお嫁さんだって言っていたから、私は何番目になるんだろう。


「ねぇ、ソフィ。ここに居ない女性は全員アレックスのお嫁さんなんだよね?」

「……そう聞いております」

「お嫁さんの序列ってどうなっているの?」

「残念ながら私がそういう情報に疎いので、確かな情報ではなく、あくまで私の推測となりますが……おそらく、序列一位はフィーネ様かと」

「フィーネ……って、あの背が高い夢魔族の女の子?」

「……夢魔族? ……おそらく、その女性かと」


 意外だ。

 今日一日しか見て居ないけど、エルフのリディアとずっと一緒だったから、彼女が序列一位だと思っていたのに。

 リディアは、あくまで作業の為に居たって事なのかな? ……まぁそれでも、リディアがここに居ない以上、アレックスのお嫁さんに違いないんだけど。


「ちなみに、どうしてフィーネが一番だと思うの?」

「皆様は大部屋で眠ってらっしゃいますが、フィーネ様のみ個室でアレックス様と共に夜をお過ごしになられておりますので」

「なるほど。添い寝してもらえるって事は、確かに特別なのかもね」


 さっきは全裸だったから恥ずかしかったけど、服を着た状態でなら、私もアレックスと一緒に眠りたいなー。

 アレックスの胸に顔を埋めて、優しく頭を撫でてもらいながら寝るとか、最高だよね!

 でも、ソフィの話から考えると、特別扱いしてもらえるのは、一番だけ。

 ……それも当然か。だって、一番なんだもん。


「ソフィ。私、フィーネに勝てるかな?」

「……ユーディット様も、マスターの奥様になられるのですか?」

「うん。……あ、でも、そうなると一緒にお風呂へ入るの? さ、流石に未だそれは恥ずかしいかも」

「マスターに奥様が複数居られるのは気になさらないのですか?」

「え? だって、人間族も一夫多妻制なんでしょ? 天使族も一緒だからねー」

「……なるほど」


 一先ず、ソフィとお話ししながらお風呂を上がると、メイドさんのモニカが脱衣所に居て、


「ユーディット殿。その翼を考慮した服が無く……とりあえず、布で簡易に作ってみたのだが、どうだろうか」

「十分だよー。ありがとう」


 新しいスカートと、背中が開いて胸が隠せる布をくれた。

 その後、モニカもアレックスたちと一緒にお風呂へ行って……って、お嫁さんなのにメイドの格好なの?

 でも、ソフィもアレックスに仕えているって言っていたよね?

 仕えているっていう事は、メイドさんとかでしょ? ソフィの格好は白いローブだから、メイドって感じはしないけど。


 それはさておき、元々メイドとして仕えていたモニカが、アレックスにプロポーズされたって事かな?

 流石に女性からプロポーズとかはしないよね? それとも人間族は女性からでも結婚を申し込むのかな?

 ……今度、どうやってアレックスにアプローチしていったのか、モニカに教えてもらおーっと!

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