第102話 聖水から作った魔物除けの効果

 東に向かって開拓する事に決め、午後から俺とリディア、人形たちで協力して、東に向かって通路を作っていく。

 時折現れるシャドウ・ウルフを倒しつつ、かなりの距離を進んだ所で、


「お父さん。フィーネ様が魔物除けのまじない薬を完成させたって」

「分かった。フィーネに、こちらへ来てもらってくれ」

「わかりました」


 メイリンを介して、人形からフィーネの様子が伝えられる。

 各所に人形が居てくれると、通話魔法のように離れた場所でやりとりが出来て助かるな。

 そんな事を考えつつ、東へ通路を作っていると、


「アレックス様ーっ! お待たせーっ!」


 家の方角からフィーネが走って来た。


「……ふぅ。アレックス様、かなり遠くまで来たんですね。フィーネ、ここへ来るだけで、凄く疲れちゃいましたよー」

「すまないな、フィーネ。ありがとう」

「ううん、いいよー。夜にご褒美をくれればー! それで、この魔物除けの使い方なんだけどね……」


 フィーネが夜とかご褒美とかって事を、サラッと言いながら、説明をしてくれた。

 何でもフィーネが作ってくれた魔物除けは、人間は何も感じないが、魔物は嫌う匂いを出すお香みたいな物らしい。

 なので、魔物を寄せ付けたくない場所に置き、火を点けると良いのだとか。

 ……匂いなので、風向きとかで効果に影響が出そうだけど、先ずはシャドウ・ウルフに有効かどうかを確認してみる事に。


「使い方は分かった。リディア、火を頼む」


 人差し指の先から第二関節くらいまでの円錐形の魔物除けを小皿に乗せ、リディアに火を点けてもらう。

 特に何の匂いもしない白い煙がうっすら立ち昇るものの、こんな僅かな煙で効果はあるのだろうか?

 半信半疑のまま東へ通路を作り続けていると、一体のシャドウ・ウルフが向かって来た。


「フィーネ。その小皿を貸してくれ」


 フィーネから魔物除けを受け取ると、足元に置き、剣を構える。

 シャドウ・ウルフが近寄って来て……逃げ出した。


「凄いな。シャドウ・ウルフが逃げて行ったな」

「聖水を薄めて撒いているようなものだからー」

「なるほどな。ちなみに、この魔物除けの持続時間は?」

「んー、たぶん一時間くらい? その代わり、保存出来るよー」

「分かった。フィーネは魔物除け作りを頼む。……だけど、ユーディットに聖水を催促したりしないようにな。モニカのが大量にあるし」

「はーい」


 そう言って、フィーネが再び家まで戻って行く。

 この魔物除けがあれば、シャドウ・ウルフと戦わなくて済むし、人形たちに壁の拡張を任せられそうだ。

 それからも東に向かって通路を作って行き、日が落ちて来たので、今日の作業を終了する事に。

 先ずは皆で人形たちの家まで戻るのだが……遠いな。

 俺とリディアの二人だけで壁を広げていた時と違い、人形たちも手伝ってくれているから、一日でかなり進んでいたようだ。

 人形たちと別れ、リディアと家に戻ると、そこから夕食に。


「美味しいっ! 今まで喉の乾く食事と、お水を大量に飲まされていたから……ご飯がこんなに美味しいなんてっ!」


 ユーディットが泣きそうになりながら、ご飯を食べている。

 水を沢山飲まされていたのは、やはり聖水の作り方がモニカと同じ……いや、考えない事にしよう。

 夕食を終えると、ユーディットがどこかへ姿を消し、


「アレックス。これ、今日の分の聖水なの。受け取って」

「あ、あぁ……ありがとう」


 昨日と同じように、ほんのり温かい液体を渡してきた。

 くっ……モニカが「私の聖水も受け取って」と目で訴えかけてくる。

 モニカは聖水を作る所を見せられているが、ユーディットは見ていない。

 もしかしたら、モニカとは違う作り方かもしれないじゃないか。

 俺も無言でモニカにそう訴えかけ、一先ず風呂へ行く事に。


「ユーディットは、ソフィと一緒に後か、もしくは先に入るか?」

「ん? ……えっ!? アレックスは、ここに居る皆と一緒にお風呂へ入っているの?」

「妾たちは皆、旦那様の妻だからな」


 メイリンの言葉でユーディットが暫し固まり、


「じゃ、じゃあ先に入らせてもらおうかな。私は羽が濡れると、乾くまで時間がかかるから」

「分かった。ソフィ、悪いがユーディットを風呂へ案内してあげてくれ」

「畏まりました。ではユーディット様、こちらです」


 ソフィと共に風呂へ。

 俺としては、ノーラも一緒に行って欲しい気もするが……今日も分身スキルで乗り切ろうか。

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