第634話 ザシャの力

 翌朝。やっと……今度こそ、西の大陸に向けて出発となった。

 メンバーは、俺とレヴィアとラヴィニア、ミオ、ザシャとシアーシャに、プルムとグレイス、ユーリの合計九名。

 今回は、別の大陸へ行くのと、戦いが激しそうだという事で、戦えないトゥーリアとルクレツィアには、アマゾネスの村で待っていてもらう事にした。


「うーん。アレックスの姿をしたプルムが居るから我慢出来るけど、ちゃんと戻って来てー?」

「そうそう。泣いちゃうよー?」

「そうですよ、アレックスさん。ちゃんと夜は来てくださいね?」


 トゥーリアとルクレツィア、更にリディアからも釘をさされながら、出発する事に。

 ちなみに、トゥーリアの言うプルムの分裂は昨日で三体増え、プルム曰く、各地に居るのを全て合わせると三十体らしい。

 そのうちの半分以上がアマゾネスの村に居る訳だが……まぁここは女性も多いので、任せる事にしよう。


「じゃあ、行ってくるよ」

「アレックス。気を付けてくださいね」

「……レヴィアたんが一緒。大丈夫」


 天后に見送られ、アマゾネスの村の近く――北の大陸の南東から真っすぐ西へ向かってもらう事にした。

 天后の力で灯台に転移させてもらう事も出来るのだが、この大陸の北側に出てしまうからな。

 目指す方角はどちらかというと、西南西なので、ここからレヴィアに出発してもらう。


「うわぁ……話には聞いていたけど、竜人族って本当に海竜に変身出来るんだな。……元々はあんなに幼いのに反則だって」

「ひぃ……わ、私は無害ですのっ! 食べても美味しくないですのっ!」

「す、凄い。大きい……」


 いや、ザシャはまだしも、シアーシャは怖がり過ぎだろ。あと、グレイスは……気絶していないか!? 大丈夫だからな!?

 というか、みんな昨日の夜、普通に喋っていたし、そもそもレヴィアは人を食べたりしないし。

 ……いやまぁある意味で俺は食べられているんだが。

 三人を宥め、レヴィアに船を引いてもらって西へ進んでいると、ユーリから声が掛かる。


「あ、パパー! ニースちゃんが、おんせんができたから、きてほしいってー!」


 うん。温泉の事をすっかり忘れていた。

 ラーヴァ・ゴーレムと約束したし、玄武の情報も貰ったし、行かない訳にもいかないか。


「確かニースが温泉を作っているのはララムバ村だったかと思うが、ここから近いのだろうか……って、北の大陸に詳しい者が一人も居なかった!」


 トゥーリアとルクレツィアを残して来てしまったし、フェリーチェはモニカと共に別行動だし……しまったな。

 完全に西の大陸へ行くつもりだったので、すっかり失念してしまっていた。

 とりあえず、今からでも陸に上がるか。


「……という訳で、何処かで船を陸に寄せて欲しいんだ」

「……わかった。待ってて」


 レヴィアに頼み、高い崖に船を近付けてもらうと、崖を掘り進めて行こうと思ったのだが、


「アレックス。それなら、私が何とか出来るかもしれない。船に乗ってくれ」


 ザシャが何か出来るらしく、言われた通り全員で船へ。

 どうするのかと思っていると、ザシャが船から降りて海へ入り……少しずつ船が持ち上がっていく!?

 そのままゆっくりと陸まで進み、崖の上に船が降ろされる。


「ふぅ……アレックスから沢山魔力を貰ったから出来るかも? と思ったけど、本当に出来たな」


 どうやら、飛行魔法が使えるザシャが、船を下から持ち上げて運んでくれたらしい。


「……ザシャはヴァレーリエやランランを見て降伏したが、もしかして俺より強いんじゃないのか?」

「そのヴァレーリエや玄武に、レヴィアを従えているアレックスが何を言っているんだ? というか、私は普通にアレックスに勝てる気がしないんだが」

「そんな事は無いと思うんだが……」

「アレックスに勝てそうなのは、私の見立てでは、あの幼い女の子……ソフィと言ったか。普段はそれ程でも無いが、魔力が暴発するんじゃないか? ってくらいに巨大な魔力を蓄えている時があるよな? あの状態のソフィくらいでは?」


 魔力が溜まっている時のソフィは確かに凄いな。

 あの全てを消滅させる白い光はヤバ過ぎる。

 ザシャの意見に同意したところで、


「アレックスよ。温泉へ行くのはよいのだが……どっちへ向かうのじゃ?」


 ミオに言われて周囲を見渡し……何も無い場所へ上陸してしまった。

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