第464話 目を逸らすリディア

「こ、これが男の人の……ヴィクトリアがハマるのも分かる」

「でしょ? 私、このマジックアイテムと結婚するっ!」


 ジェシカは、分身によって全裸にされたのだがペタンと床に座りながらも、こっちへ熱っぽい視線を送ってくる。

 ヴィクトリアは相変わらず俺の上で動き続け……遂にくてっと俺の胸に倒れてきた。

 今なら話を聞いてくれそうだな。


「すまん。何度も言っているが、俺はマジックアイテムではないのだが」

「……ん? えっ!? じゃあ貴方は?」

「俺はアレックスという。仲間の友人? を助ける為に、この地へ来たんだ」

「そうなんだ。じゃあ、アレックス。結婚! 結婚するー! そして、毎日してね!」

「こうなった以上、勿論責任は取ろう」


 とりあえず、リディアたちの所へ戻らなければ。

 流石に夕食の準備が終わっているだろうし、心配しているかもしれないしな。


「ま、待って! ヴィクトリア。アレックスのが凄いのは分かるけど、貴女は部隊長になる為に、死に物狂いで戦って来たはずよ。アレックスと結婚するという事は、その地位とアマゾネスの部族を捨てるという事なのよ!?」

「いいのー。そんな事より、私はアレックスと一緒に居るの」

「……ヴィクトリア。妊娠してしまったら、流石に誤魔化しようがないけれど、そうでなければまだやり直せ……ダメなのね。わかったわ。じゃあ私もヴィクトリアと一緒に、アレックスについて行く! 凄い勢いで出されたし、構わないでしょ? あ、ヴィクトリアが正妻だから、私は愛人で良いから」


 えっと、何だかヴィクトリアとジェシカが二人で手を取り合い……二人が交代する。

 いや、ジェシカもするのかよ。

 一方のヴィクトリアは、俺の胸に顔を埋め、ぐったりしている。

 この状況をどうしようかと考えていたら、またテントに誰かが入って来た。


「すみません。こちらにアレックスという……アレックスさん。これは、どういう状況なのでしょうか?」

「え……この声は、リディア?」

「夕食が出来たのに来てくれなくて、誰にも行き先を告げず、崖の上に行ったのでは? というユーリさんの推測から、みんなでアレックスさんの事を探していたのに……へぇ、随分と楽しそうですね」

「ま、待ってくれ。これには訳があるんだ!」

「へぇ……どんな理由でしょうか?」


 おぉぉ……リディアの目が冷たい。

 とりあえず、早く戻らなくては。

 リディアが作ってくれた食事を無駄にする訳にはいかないからな。

 だが腰痛に耐えながら、起き上がろうとしたところで、先にヴィクトリアが立ち上がる。


「どこの誰だか知らないけど、私の旦那様に何の用なの!?」

「旦那様? ……はぁ。アレックスさん、一体何人目ですか? 貴女たちこそ大丈夫? アレックスさんは、とある人間族の国王なの。妻だって二桁……もしかしたら三桁は居るわよ?」

「さ、三桁!? じゃ、じゃあ貴女も……」

「えぇ。アレックスさんの妻で、第一夫人よ。もちろん、お腹に子供も居るんだからっ!」


 えぇっ!? リディアっ!? 第一夫人って何の話だっ!? 俺は女性に順序なんて付けないぞっ!?

 だが、それよりも何よりも、既に子供が居たのか!

 身体を起こしてリディアを見つめると……ん? 目を逸らされたような気がしたんだが。

 あー、リディアはご飯を粗末にするのを怒るからな。

 けど、リディアに子供が出来ていたというのは、本当にめでたいし、嬉しくて、喜ばしい。


「リディア……っと、すまないジェシカ。俺はリディアの所へ……」

「ダメですっ! アレックスさんは、ヴィクトリアと私の初めての人で、私たちの旦那様なんですっ!」

「はぁ……貴女たちは、少し前の私と同じです。ですから、凄く気持ちは分かりますが、諦めてください。本気を出したアレックスさんは、たった二人でどうこう出来るような方ではないのですから」


 なるほど。これはヴィクトリアとジェシカを気絶させろというリディアからのメッセージか。

 だったら……ぐっ! だ、ダメだ。腰が痛過ぎる!

 兎耳族たちの五十人同時のせいで、無理だっ!

 どうしようかと考えていると、


「くっ……お腹の中に子供が居るなんて」


 ヴィクトリアが折れてくれたようだ。

 何とか丸く収まるのかと思っていると、


「だけど、これだけ出してもらったし、私だって子供が出来ているはずっ! 第一婦人の座を賭けて勝負よっ!」


 思いもよらぬ方向へ話が進んでしまった。

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