第929話 三つ目の要求

「報告致します。人間族のアレックス様、並びにその妻レヴィア様と、応援に来られたもう一人の妻カスミ様により、この地を縄張りにしていた穿山甲が退治された事を確認致しました」

「な、なんとっ! こんなにも早く!? 誠か!?」

「はい。この目でしかと確認致しました。襲われた穴の先に、穿山甲の死骸が残っておりますので、ご確認いただければと」


 カスミが穿山甲を倒した後、蟻人族の少女と共に将補の所へ戻り、報告してもらう。

 将補が驚いているが、ひとまず倒したのは事実なので、問題ないはずだ。

 俺の空間収納ではあのサイズを格納するは無理だが、グレイスが居れば簡単に証拠を出せたのだが、誰かが動かすような事もないだろう。


「いや、報告を信じよう。竜人族を妻にする程の男だ。それに、あの数の分身……間違いなく、十人くらいは子を宿しているであろうし、女王からの要求はあと一つだな」

「確か、栄養が豊富な食べ物だな?」

「うむ。穿山甲の肉はかなりの量になるが、残念な事にあまり栄養は無いので、女王様ではなく弟たちの……一般兵たちの食事になるだろう」


 最初は食べ物であれば何でも良いという話だったが……どうしたものか。

 食材ではなく、調理したものであれば良いのだろうか。


「ふっ、そこまでよ。ここは、このカスミちゃんに任せてもらおうかしら」

「誰だ? 人間族の雌のようだが……あぁ、報告にあった、アレックス殿の妻という者か」

「そうよ。そして、シノビっていう暗殺や諜報活動に特化したジョブを授かっているわ」

「それは……まさか脅しのつもりなのか? 穿山甲を倒してくれた事は感謝しているが、女王を狙うというのであれば、容赦せんぞ!?」

「待って待って。勘違いし過ぎよ。私が言いたいのは、潜入調査や密偵っていう、数日間満足に食事がとれないような状況でも、一粒食べるだけで丸一日動けるようになる、栄養たっぷりの丸薬を持っている……って事よ」


 一瞬、将補から殺気が放たれて焦ったが、カスミが受け流して事無きを得る。

 まぁそもそも、カスミの説明も誤解を招くものだったが。


「なるほど。怪しい物ではないか確認しても良いか? 女王様の口に入るものは、全て毒見するのが鉄則なのだ」

「もちろん、大丈夫よ。ただ、一日分の栄養素はあるけど、ハッキリ言って美味しくはないわよ?」

「それは問題ないはずだ。旨いに越した事はないが、今の女王様は量を食べる事が出来ないのに、良質な栄養は必要という困った状態だからな」


 そんな話をしながら、将補がカスミから丸薬を一粒受け取る。

 指先程の黒い玉を将補がしげしげと見つめ、


「ふむ。毒は無いな。というより、毒を持っている材料も使っているが、他の毒と相殺させ、栄養だけを高めているといったところか」

「あら、凄い。正解よ」

「やはりな。さて……妹よ。すまぬが半分食べてくれ。蟻人族は雄と雌で性質が大きく事なる。私が無事でも、女王様に何かあってはいけないからな」


 将補がカスミの丸薬を二つに割り、一方を躊躇なく口へ運ぶと、もう一方を蟻人族の少女へ渡す。

 少女もそれを口に入れ……顔をしかめる。


「ふむ。確かに栄養は凄いな。半分しか食べていないというのに、腹が膨れたな」

「そう……ですね。ただ、苦くて臭くて、辛いです」

「なるほど。私はそのように感じなかったが、やはり味覚に差はあるかもしれないな。とはいえ、献上に値するものだ。幾つか貰えないだろうか」


 カスミが将補に五つ程の丸薬を渡し、女王へ献上してくると言ったところで、


「あ、ちょっとだけ待って。美味しく食べる方法があるの」

「ふむ。私にはわからぬ事なので、そのまま女王様へ伝えよう」

「じゃあ、このソースを……」

「本気が? そのようなものを!?」


 カスミが何かを伝えると、将補が蟻人族の少女を連れて、部屋を出て行った。


「お兄さん。お仕事も終わった事だし、さっきの続きをしましょう!」

「次はレヴィアたんの番。アレックス、早く」

「えっ!? アレックス様! 種付けをされるのであれば、我らにも是非!」


 カスミとレヴィアの声を聞き、蟻人族の女性たちが集まってきてしまった。

 穿山甲の一件が済み、カスミたちを満足させてようやく服を着たのに……いや、待ってくれ。

 話を……話を聞いてくれっ!

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