第928話 久々の再会
苦しむ穿山甲の横を、一人の女性がゆっくりと歩いてくる。
大きな穿山甲の影でハッキリとは見えないが、このシルエットと声は……
「カスミ!? カスミなのか!?」
「そうよー! お兄さん、会いたかったわー!」
つい先程まで、分身同士で抱き合っていたカスミだった。
どうしてこんな所にいるのかと聞こうとしたのだが、それよりも先にカスミが抱きついてくる。
「待った。いろいろ聞きたい事はあるが、今はそれよりも……」
「ん? もしかして、この魔獣の事を気にしているの? それなら、もう終わっているわよ?」
そう言って、カスミが穿山甲を指さすと、苦しんでいたのが嘘のように静かになった。
「穿山甲は丸まった防御態勢になると確かに硬いけど、身体が大きいからねー。鱗の隙間から毒を塗った刃を挿したのよ」
「そうか。しかし、こんなに大きな魔物をこんなに短時間で……」
「カスミちゃんはシノビだからねー。メイリン様経由でいろいろ話を聞いているけど、私たちはダークエルフとはまた違う系統の毒を使うの。とはいえ、植物知識は向こうの方が上だろうから、一度話は聞いてみたいかなー」
そう言って、カスミが抱きついたまま……いや、ここへ来てから、ずっとこんな事ばかりしているんだが。
「お、お姉さん、凄いっ! えっと、お姉さんもアレックス様の奥さんなんですか?」
「えぇそうよ……って、この子、もしかして蟻人族の少女!? 流石はお兄さんねー。蟻人族は中々人前に姿を現さない種族だけど、女性……しかも子供なんて、レアどころの話じゃないわよ!?」
「そうなのか? というか、いろいろ聞きたい話もあるんだが」
カスミに話を聞くと、カスミは滅私奉公という俺の居る方角がわかるスキルがあるそうで、分身で俺の分身に会いながら、ここへ向かっていたらしい。
ちなみに、そのスキルは使用者が仕える相手の場所がわかるそうで、サクラが使うと俺ではなく、メイリンの位置が分かるそうだ。
「という事は、このカスミは分身ではなく本体という事で良いのか?」
「その通りよ。ちなみに、今もシーナ国でカスミちゃんの分身が情報収集を続けているから、ちゃんと任務も遂行しているわよー」
「相変わらず、凄い分身の操作だな」
俺も分身と意識を切り替えたりは出来るが、同時に分身を動かす事は出来ず、自動行動スキルに任せる事になる。
ただ、この自動行動スキルは便利ではあるものの、いろいろやらかすので困りものなのだが。
「しかし、カスミはどうしてわざわざ本体でここに?」
「そんなの決まってるでしょー! お兄さんに会いたいのと、お兄さんの子供を授かりたいからよー。流石に私の分身では妊娠しないもの」
「そ、そうか」
「サクラちゃんたちは、まだ未熟だからって、子供を授からない為にシノビの避妊薬を飲んでいるみたいだけど、カスミちゃんはもう指導側だからねー。妊娠しても大丈夫よー!」
そう言いながら、カスミが激しさを増すと、
「わ、私もアレックス様の子を授かりたいです」
「レヴィアたんも。回復したから分身して」
蟻人族の少女とレヴィアが立ち上がる。
「と、とりあえず、将補のところへ戻ろう。もう一つの課題もあるし」
「ん? お兄さん。課題って?」
「あぁ、実は……」
俺とレヴィアがハヤアキツヒメを探しに出掛けた事は、カスミもメイリン経由で知っていたそうだが、今の状況は当然知らないので説明すると……カスミが首を傾げる。
「ふーん……確か、土竜耳族にハヤアキツヒメの話が伝わっているのよね?」
「あぁ、その通りだ」
「でも、土竜耳族の棲家って、この辺りじゃないはずよ? 同じ地中に巣を作る蟻人族とぶつからないようにしているはずだから」
「えっ!? ……そういえば、ここってどの辺なんだ? カスミが来られたって事は、東大陸ではあるんだよな?」
「えぇ。シーナ国の南東の辺りよ。港街クワラドから近いわねー」
クワラドと言えば、闇ギルドを潰した褒美として屋敷をもらった場所じゃないか。
ヘレナやクララがいるし、シェイリーの魔法陣でも行き来出来るはずだ。
という事は、第四魔族領にはすぐ帰れそうだが……早く戻らないと、カスミからメイリン経由で居場所を聞いた者たちがやってきそうだな。
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