第930話 壁
カスミやレヴィアに加え、蟻人族の女性達に囲まれ、仕方なく分身を出して暫く経ったところで、将補が慌てた様子で戻ってきた。
「アレックス殿! アレックス殿!」
「女王はどうだったのだろうか」
「その事で、急いで来てもらいたい! 二人の妻も是非一緒に!」
カスミの丸薬のおかげで、上手く事が進んだのだろうか。
だが、将補の反応を見ると、やや良い反応では無い気がする。
カスミの丸薬を食べた女王が何か良くない状態になっているのだろうか。
かなり複雑な道を進み、右へ左へ……どころか、登ったり下ったりと迷路のような道を進んで行く。
「蟻人族にとって、女王様をお守りする事が第一なのだ。万が一に攻められた際に、女王様が狙われないように複雑な道となっているのだ」
俺の考えを見越したかのように、将補が説明してくれたが……本当に複雑だな。
レヴィアを抱きかかえているから良いものの、自分で歩いていたら、面倒だからと壁を壊してしまうのではないかと考えてしまう。
幸い何かが起こる前に、目的地に着いたようで、将補が足を止めた。
相変わらず薄暗い場所だが、半透明の壁のようなもので仕切られており、その先に何があるのかわからない不気味な感じのする部屋だ。
「女王様。例の人間族の男と、その二人の妻をお連れ致しました」
将補が壁に向かって叫び、その場に跪く。
女王と呼ばれれている程なので、従った方が良いかと俺も片膝をつき、レヴィアを地面に降ろした。
「……」
「女王様は、人間族たちの話をお聞きになるそうです。将補殿はお下がりください」
「はっ! ……では、アレックス殿。決して粗相のないように頼む」
奥から女性の声が聞こえてくると、将補がくるりと半回転して、部屋から出ていく。
「……」
「女王様は、貴方たちから直接お話が聞きたいと仰っております。状況を説明して下さい」
「では……」
ひとまず言われた通りに、ハヤアキツヒメを探している旨を話すと、聞き取れない程の小声で、何か奥で話している様子が伺える。
よく分からないが、直接声を聞かせられないのか、大きな声が出せない程に体調が悪いのかもしれない。
「女王様のお言葉です。ハヤアキツヒメの居場所は、ここから遥か北に、年中雪が積もっている場所で聞くと良い……との事です」
「年中雪が積もっている場所?」
「お兄さん。北にある雪が積もっている場所……おそらく、シーナ国の隣にある雪国じゃないかしら」
雪国? ん? 待てよ……何か聞いた事がある話だな。
「……って、それはネーヴの故郷の事か?」
「東大陸に限った話であれば、間違いないかと。ただ他の大陸の話だと、カスミちゃんの知らない場所っていう可能性はあるけど」
流石に、北大陸の話ではないと思いたい。
東大陸から北大陸までは、海竜の姿でレヴィアに泳いでもらって数日掛かる程の場所だ。
地中から穴を掘って……となると、気の遠くなる程の距離がある。
「……」
「別の大陸の話ではないと、女王様が仰っております」
「わかりました。ありがとうございます」
そういう事なら、ネーヴやその兄のスノーウィに連絡を取って、案内してもらうのが良いだろう。
ようやく新たなハヤアキツヒメの情報が得られたので早速向かおうとしたのだが、奥の女性の声から待ったが掛けられる。
「お待ち下さい。先程献上いただいた食べ物について教えて下さい」
「どうしたのー? 悪いけど、丸薬の作り方は教えられないし、作れないと思うわよー?」
「いえ、丸薬も素晴らしかったのですが、教えていただきたいのは味付けのソースの方です。あの美味しくて魔力が豊富な白い液体について、是非とも教えていただきたいと」
どうやらカスミの丸薬について話を聞きたいようだ。
ひとまずカスミに任せようか。
「なるほどー。あのソースが美味しいのは分かるけど、直接飲んだ方がもっと美味しいわよ」
「直接? どういう事だ?」
「貴女たちがこっちへ来るか、もしくは壁? からソースを出す器官だけ挿れさせてくれればわかるわ」
「よくわかりませんが、我らがそちらへ行く事は出来ません。そのソースを出す器官? とやらを、そこの隙間から入れてください」
「……だって。お兄さん」
いや、どういう事なんだ?
訳がわからないうちにカスミが俺の服を脱がせ、グイグイ壁に押して行く。
いつの間にか空いていた壁の穴に、カスミが俺のアレを入れ……
「これは……まさかっ!」
「それを咥えて直接飲むのが一番美味しいですよー」
「で、では私が……なんて芳醇な香り! これは……風味が全然違いますっ!」
いやあの、俺は一体何をさせられているんだ!?
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