第931話 帰還
「あの、大変美味しゅうございました。女王様もお喜びになっております」
「それは良かったわー。女性で、これを嫌いな人はいないと思うわよー」
「ところで、これは器官と仰っておりましたが、一体何なのでしょうか? 我々には丸太にしか見えないのですが」
「まぁその……他の蟻人族の女性達に聞いてみると良いかもねー。みんな知っていて、味わっていたらしいしー」
カスミがレヴィアから聞いたという話を壁の向こうに居る者たちに告げると、壁の向こうが困惑し始める。
「……」
「いえ、最上のものは全て女王様へ献上されております。決してそのような事は……」
「……っ!」
「は、はいっ! ただちに確認致します!」
ちょっと揉めているような感じもするが、もう良いだろう。
外で待っていた将補に声を掛け、穿山甲と戦った場所まで案内してもらうと、最初に出会った蟻人族の男性がいた。
数人の蟻人族の男性たちで、穿山甲の肉を巣へ持ち帰ろうとしているようだ。
「ん? おぉ、アレックス殿! その様子だと、妻も回復したようだな!」
「いや、治したいのはレヴィア……この子ではなく、他の女性なんだ」
「そうなのか!? ずっと抱きかかえて移動していたし、時折変な声をあげながら何度も痙攣していたから、てっきりその少女が具合の悪い妻だと思っていたよ」
蟻人族の男性が話し掛けて来たが、その……すまない。
レヴィアの体調が悪いのはその通りなのだが、痙攣などは違う理由……だと思う。
「へぇー。ずーっと、抱きかかえて移動していたんだ。ふーん。お兄さん。カスミちゃんは一回で終わっちゃったんだけどなー」
「と、とにかく急ごう。モニカを戻してあげないと」
「お兄さん。今の内にカスミちゃんにも同じ事をしておかないと、魔族領へ戻ってからおねだりしちゃうかもー。そうなったら、みんなも便乗してくるから大変よぉー?」
「うぐっ! そ、そんな事はない……と言い切れないのが辛いな」
カスミは今くらいの事なら普通に言うだろうし、そうなるといろいろとマズい事になりそうな気はする。
「と、とりあえず、ここからクワラドの街が近いという話だったし、案内してくれないか?」
「勿論良いわよー。けど、移動中はお願いねー!」
「……アレックス。レヴィアたんも。分身して」
周囲の蟻人族たちが不思議そうにする中、ひとまず別れの挨拶を済ませ、カスミとレヴィアに迫られながらその場を去る。
カスミが道を案内……というか、獣道ですらない岩山を進んで行く。
「お兄さーん。蟻人族さんたちから離れたし、そろそろ良いんじゃないかなー?」
「いや、せめて普通に歩ける道じゃないと危なくないか?」
「大丈夫よー。これくらいの岩山ならー」
確かにカスミは大丈夫かもしれないが……というか、軽々と跳んで行くが、俺は岩だらけの場所をそのように進む事は出来ない。
更にレヴィアを抱っこしているから尚更だ。
……もしかして、元来た海の穴からレヴィアに海中を運んで貰った方が早かったのではないだろうか。
その場合、水中呼吸スキルを持たないカスミには別ルートで移動してもらう事になるから、嫌がりそうだが。
ひとまず、比較的安全だという足場をカスミに教えてもらいながら、何とか岩山を降りていき、ようやくこれまでよりはマシな山道へ出た。
「お兄さん。もう、ここなら大丈夫でしょ? 獣道があるから、かなり歩きやすくなっているし」
「獣道を歩きやすいと言うのだろうか……」
「……アレックス。本体はカスミに譲る。今日、沢山してもらっているからレヴィアたんは分身で良い」
結局、カスミとレヴィアに押し切られ、カスミを抱きかかえた俺の後ろを、レヴィアを抱きかかえた俺の分身がついてくるという状態で山を下りる事に。
「んぅっ! 傾斜のある下り坂だから、お兄さんが一歩進む度にぃぃぃっ!」
「これ……っ! 今日、一番凄……」
とりあえず、人がいたら終了だからな!?
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