第249話 精神攻撃

「キサマ……父上を愚弄するのか!?」

「その男も、俺に意味不明な難癖を付けてきたじゃないか。同じだろ?」

「ツキ。落ち着くんだ」


 朝に遭った時と同じく、副団長の獣人が俺を疑ってきて、今にも飛びかかりそうなツキを抱きとめる。

 ここで殴れたら、俺も話が早くて助かるんだけどな。


「だが、アンタが俺とツキの事を疑ったのは二度目だ。次は無いぞ」


 こいつを殴ったら面倒な事になるのは事実だが、俺とツキが疑われた事も事実だ。

 一度目は仕方ないとして、三回目は……許すつもりはない。


「……ま、まぁいい。で、俺が闇ギルドに関与しているっていう証拠とは何だ? そんな物があれば出してみろよ」

「あるポン。この少女が証拠ポン。この腰の奴隷紋とアンタが魔力で繋がっているポン」

「腰? あぁ確かにあるな。だが、魔力で繋がっているって言われても、見えねーんだが。そんなもんを証拠だって言われても、ただの言い掛かりにしか聞こえねーよ。……あ、俺にも見えたぜ。その奴隷紋が、そこの男と繋がっているのが。だから、その男が闇ギルドのギルドマスターだ」

「……ふぅ。アレックス……アイツ、殴って良いポン?」


 マミの気持ちは分かるが、やめてくれ。

 というか、俺も殴りたいんだがな。


「ふむ。その奴隷紋は本物のようですね。でしたら、こんな物がありますが」

「リュウホウさん。それは?」

「昔、ちょっとしたツテで手に入れた物です。奴隷紋に掛けると、その奴隷紋の所有者が判るという代物です。所有者が近くに居ないと効果が無いのですが、試しに使ってみましょう」


 いつの間にか部屋から居なくなっていたリュウホウが戻って来たかと思うと、小さな小瓶を手にしていた。

 その小瓶に入っていた粉を、ケイトの奴隷紋に掛けると……白い粉が紫色に変わり、獣人族の男に向かって、線を描くようにしてフワフワと飛んで行く。


「リュウホウ。これは何の真似だ!? 奴隷の所有者が判るアイテムなんて聞いた事がないぞ!?」

「奴隷紋は、所有者に奴隷の位置を教えますからね。何かしら、魔力的に繋がっていないと、そんな事が出来ないでしょう。その魔力を可視化する薬だと聞いています」

「……チッ! ここまでか。だがな、俺を追い詰めた事を後悔するんだな。これは、闇ギルドが作った、能力を五倍にする闇ポーションだ。未だ試作品だが、効果は……ふへへへ! はははははぁっ! 俺を捕まえられるもんなら、捕まえてみな! 獣人族の高い身体能力が更に高くなっているんだ。片っ端から殺し……ぶべぁっ!」


 あれ? 弱いぞ?

 いや、身体が大きくなったし、能力も五倍だっていうから、俺を襲って来た奴らよりは強く殴ったけど……あ、起き上がった。

 プルプルしてるけど。


「テメェ……ここは退いてやるが、必ず殺してやる! キサマも、キサマの娘も妻も、家族全員皆殺しだ! 闇ギルド全員で報復してやるからな! 覚えておけ!」

「≪閉鎖≫」

「は……? いや、ちょっ……お前は、グラップラーじゃないのかよ! どうして、こんなスキルが使えるんだ!?」

「いや、俺はグラップラーだなんて一度も言っていないんだが」


 とりあえず、まだ元気そうなので、もう一発くらい殴っておこうかと考えていると、


「父上。この者に、シノビの薬を塗って発狂させるというは……いや、しかし父上のモノは喜んで触りますが、こんな奴のに触れるのは嫌だな」


 ツキが怖い事を言う。

 というか、あのシノビの薬って、男には効かないんじゃないのか?

 その、薬が塗られたケイトの中に……げふんげふん。

 とりあえず、俺に何も変化が無いから……いや、俺は状態異常が効かないから良かったものの、普通の男だとヤバかったのか!?


「あ、見てみるポン。薬で身体が大きくなって、ズボンが破れているポン。それなのに、アレはアレックスの半分の大きさもないポン」

「あら、可愛い。そこは、薬では大きくならなかったんですね。あ……まさか、大きくなってそれって事は無いですよね? それは、可愛いというか、可哀想ですけど」

「あはは。何コレ。アレックス様のと比べて、明らかに小さいんですけどー! 実は女の子なんですかー?」


 えっと、マミもジュリもケイトも精神攻撃はやめてやってくれ。

 心が折れたのか、三角座りで頭を膝に埋めてしまったじゃないか。

 と、とりあえず、後はジュリとリュウホウに任せようか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る