第31話 不毛の地に現れた森と、幼女な青龍さんの歓迎会

「森を作る大きな緑の蛇……本当だったんだ」

「そこのエルフよ。次に我の事を蛇と呼んだら、流石に怒るぞ」

「す、すみませんっ! 青龍さんを蛇呼ばわりした訳では無くて、エルフの伝承を復唱しただけなんです」


 リディアが青龍さんにジト目で見つめられているのはさておき、手をかざしただけで森を生み出すというのは確かに凄いと思う。

 青龍さんを地上へ連れて行ったら、この不毛の地に森を作る事が出来るのではないだろうか。


「リディア。青龍さんを……というか、皆を連れて地上へ上がる事は出来ないか?」

「全員ですか? 出来なくはありませんが、足場とする石の壁を大きくしないといけないので、少し時間が掛かりますね」

「む……アレックスたちは地上へ戻りたいのか? それならば、我が送ってやろう」


 そう言うや否や、青龍さんが近付いてきて、俺たちを集めると、緑色の蛇……巨大な龍の姿に変わる。

 俺たちをその背に乗せてゆっくりと上に昇ると、そのまま穴から外に出て幼女の姿へと戻った。


「凄いな。青龍さんは空を飛べるのか」

「うむ。ドラゴンだからな。ただ、社からは離れられんが」

「どの辺りまでなら行動出来るんだ? 俺たちの家が見える範囲にあるんだが」

「……壁で見えんので、とりあえず見せてくれるか?」


 リディアに壁を消してもらうと、長時間は無理だが、短時間なら行けそうだと青龍さんから話があった。

 なので、ここから小屋のある南東の方角に向かって、石の壁で細い通路を作りながら帰る事に。


「しかし、本当に何も無い大地になってしまったのだな」

「あぁ。そこで俺たちが開拓に来たんだ」

「ふむ。では、少し協力しよう」


 そう言うと、青龍さんがリディアの作る通路の外側に大きな木を生やしていく。


「この木々はヒノキと言って、家を作るのに向いている。それだけでなく、家具を作ったりもしていたらしいし、好きに使うと良い」

「良いのか? 木を切ったりして」

「大丈夫だ。足りなければ、幾らでも生やしてやろう。アレックスは我の恩人だからな」


 そのまま小屋まで戻り、振り返ると北西の方角に森が出来ていた。

 それから、俺とリディア、エリーの三人で多めに食事を作り、皆で食べる事に。


「では、これより青龍さんの……って、今更だが青龍さんって呼び方は他人行儀だな。他の呼び方は無いのか?」

「我は青龍であり、それ以上でも以下でもないからな。青龍という名前しかないぞ?」

「んー、青龍、セイリュー、シェイリュー……シェイリーはどう?」


 ニナの提案はどうかと青龍さんを見てみると、好きに呼んでよいという返事だったので、


「じゃあ改めて。シェイリーとの出会いを祝って、乾杯!」


 談笑しながら食事をする事にした。

 ちなみに、命の恩人シェイリーに感謝を……みたいな言葉に最初はしていたんだが、恩人なのはお互い様だからと、やり直しを要求されてしまった。

 それと、小屋に椅子が四つしかないので、俺が立つと言ったのだが、


「我の姿では、椅子に座っても、せっかくの料理に手が届かぬ。なので、アレックスの膝の上に座らせてもらう」


 と、シェイリーから強い要望があり、今に至っている。

 至っているのだが、時折エリーとリディアが羨ましそうにこっちを見て、シェイリーが「ふっ……」と鼻で笑うのは、一体何なのだろうか。

 そんなシェイリーに料理を取り分けてあげると、


「これは……旨いな。米が欲しくなってしまうではないか」


 どうやら口に合ったようだ。


「あぁ、それはシチューだよ。少し、味が濃かったかもしれないが……米は聞いた事があるものの、俺やエリーの住んでいた所では、あまり食べないな。リディアやニナはどうだ?」

「エルフの森では栽培していませんね。ただ、東方でよく食べられているとかっていう話を聞いた事がある気がします」


 東方か……俺たちとは異なる文化の人々だと、噂で聞いた事があるくらいだな。

 あ、異なる文化と言えば、シェイリーの着ている服も、俺たちとは作りが全然違う気がする。

 シェイリーの言っていた、黒髪の人たちの服なのかもな。


「んー、お米かぁー。ドワーフは美味しければ何でも食べるし、種族としては食べ物よりも、お酒が好きみたいだよー。ニナは飲まないけど」


 ドワーフ族は土の中で暮らして居たりするから、食べ物に拘ったりしないのだろう。

 そんな事を考えて居ると、


「ドワーフ族がお酒好きなのは有名ですしね。まぁニナさんには未だ早い気がしますけど」

「むっ! もしや酒があるのか!?」

「いや、無いけど……って、物凄く落ち込んだな」


 シェイリーがパッと顔を輝かせて俺を見上げ、一瞬で暗くなる。

 酒か……ローランドが時々飲んでいたけど、俺は飲まないからな。

 しかし、シェイリーが見た目通りの幼女なら怒る所だが、実際はドラゴンなので不問としようか。

 そんな事を考えながら、俺も自分で作ったアサシン・ラビットのシチューを食べ、いつもより少し味が濃いと反省した所で、


「んっ!? な、何だっ!? 身体が……熱い!?」

「アレックス!? どうしたのっ!?」

「お兄さん、大丈夫っ!?」


 突然身体の中が熱くなるというか、力が溢れ出すというか……何かが変だ。

 何故か分からないが、手が……いや、俺の身体が淡く輝いているように見える。

 暫くして熱さも輝きも収まったのだが、一体何だったのだろうか。


「ふむ。これは……なるほど、そういう事か」

「シェイリーさん。アレックスさんに何が起こっているのですか?」

「アレックスは、どうやら神のスキルを授かっているようだな」

「神のスキル……ですか?」

「うむ。えくすとらスキルという言い方をする事もあるらしいが、おそらくアレックスは、魔物などの血肉を食べる事によって強くなれるようだ」


 エクストラスキル……あ、ベルンハルトを倒した時に得たスキルか。

 あの時に聞き逃した情報を、シェイリーから教えてもらう事にした。

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