第30話 地団駄を踏んだり、拗ねたりする幼女な青龍さん

 目を覚ましたら、十歳にも満たない可愛らしい容姿の、黒髪を二つ括りにした女の子が居た。

 聞けば、世界を守る青龍という神獣の化身らしく、かつて他の神獣と共に魔王と戦い、敗れてしまったらしい。


「……という訳で我は傷つき、この社へ戻って来たのだ」

「この社は、青龍さんの家みたいな物なのか?」

「うむ。もう何百年前になるか覚えておらぬが、この地には人間の村があったのだよ。その人間たちが我を祀る為に作ってくれた社なのだ」

「村が!? こんな所に!?」

「あの地の四天王によって地中に埋められてしまったが、元々ここは森の中だったのだぞ? 我は木の力を司る神獣だからな」


 ここが元々は森だって!?

 今は木が一本も生えていない、不毛の地だというのに。


「どうしてブルードラゴンなのに、木なんですか? 水とか氷の方がしっくり来るのに」

「お主……先程から我の事をブルードラゴンと言っておるが、我は緑色の龍なのだぞ?」

「青龍なのに?」

「昔は青という言葉が緑色を表していた……って、そんな話はどうでも良い! とにかく我は木の力を司るのだっ!」


 エリー……青龍さんを怒らすなよ。

 地団駄を踏む様子はちょっと可愛かったけどさ。


「あっ! そういえば、聞いた事があります。大きな緑の蛇が、森を作る神獣だと」

「だーかーらー、我は蛇では無いと言っておるだろうがっ!」

「わ、私が言ったんじゃないですよ! エルフに伝わる伝承なんですってば」

「まったく……この地に住んでおった黒髪の人間には、我を蛇などと呼ぶ者は一人も居なかったのに」


 あ、青龍さんが拗ねた。

 一先ずエリーとリディアが謝り、俺とニナがフォローしていると、何とか機嫌が直って再び話が出来る様に。

 しかし、この辺りには黒髪の人間が住んで居たのか。

 黒髪の人間なんて、少なくともフレイの街には一人も居なかったんだけどな。

 ちなみに青龍さん曰く、ここに居たゴーレムや今も有効な魔物避けの結界は、村に居た人間が作った物らしい。

 あと、この近くを探せば村があると思うが、流石に人は生きていないだろうという話をしてくれた。


「我の話はこれくらいにして……ところでアレックスたちは、こんな場所へどうやって来たのだ?」

「話せば長くなるんだが、不毛の地と呼ばれるこの地を、開拓するために来たんだ」

「……ふむ。アレックスたちは、この上に住んで居るのか」

「あぁ。あのベルンハルトの最期の攻撃から守ってくれたんだろ? 何かお礼がしたいし、良ければ家に来ないか?」


 青龍さんは俺たちに感謝すると言ってくれたが、それは俺たちだって同じだ。

 青龍さんが守ってくれなければ、俺たちは死んでいた可能性があるんだからな。


「ありがとう。だが、気持ちだけもらっておこう。残念ながら我は、まだ力を取り戻したばかりなので、この社の傍から離れられんのだ。力が回復していけば、少しずつ行動可能範囲も広がるのだがな」

「どうすれば力が回復するんだ?」

「我は木を司る神獣だからな。太陽の光を浴びる事と、人々からのお供物……つまり食事なのだが、この場所ではどちらも難しいであろう」


 確かに地下洞窟で日光を浴びるというのは難しい。

 とりあえず、ここから真上に大きな穴を開ける必要があるのだが、


「ニナ。ここから上に穴を掘るのは難しいよな?」

「だねー。そもそも届かないし、地上から下に向かって掘るにしても、上からここの位置を探るのは難しそう」

「それなら、エリーの魔法で天井を吹き飛ばす……っていうのは、どうだ?」


 俺としてはいけそうな気がするのだが、エリーに首を振られてしまった。


「アレックスさん。私が何とか出来るかもしれません」

「おぉっ、流石リディア!」

「ですが、かなりの魔力を必要と致しますが」

「魔力なら任せろ。何故かは分からないが、体力も魔力も身体から溢れ出る程にあるんだ。幾らでも分けるぞ」

「では、私の側へ……出来れば密着してください」

「……こうか?」

「ありがとうございます。では、いきますよ? しっかり私を抱きしめ……こほん。落ちない様に支えてくださいね」


 そう言って、リディアがいつもの石の壁を生み出した。

 ……俺とリディアの足元に。


「≪石の壁≫」

「≪石の壁≫」

「≪石の壁≫」


 石の壁を継ぎ足すようにして、徐々に俺たちが洞窟の天井へ近付いた所で、


「≪大地の穴≫」


 真上の天井に大きな穴を開ける。

 再び、石の壁で上に行き、穴を開けて……を繰り返していると、


「アレックスさん! 出ました! 地上です!」


 遂に青空の下へと到達した。


「お、あそこに小屋が見えるぞ。そこまで離れてないんだな……って、シャドウ・ウルフも居るな」


 近寄って来たシャドウ・ウルフを倒し、ある程度の広さを石の壁で覆ってもらうと、今度は広く浅く穴を掘っていく。

 登ってきた石の壁を足場として利用しつつ、畑一つ分くらいの穴を開けると、青龍さんの社に光が差し込むようになった。

 なので、登って来た時とは逆に、少しずつ石の壁を消してもらい……無事に皆の所へ戻って来ると、


「本当にありがとう。これで、少しずつではあるが、我の力を取り戻せるであろう」


 青龍さんが深々と頭を下げる。

 それから、青龍が周囲に軽く手をかざすと、


「凄いな」

「凄いです!」

「龍ちゃん、凄ーい!」


 社の周辺に、一瞬にして小さな森が出来てしまった。

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