第32話 エクストラスキルの効果が判明した俺は、今後の方針を考える

「アレックスは、魔物などの血肉を食する事で、相応の強さを得られる能力を有しておる。食べた物が強い相手であればある程、強力な力を持っており、その特性に応じた力を得られるはずだ」

「なるほど。じゃあ、食事をすればする程、強くなれるのか?」

「いや、そういう訳ではない。同じ種類の魔物につき、一度だけであろう。つまり、このシチュー……ふむ、アサシン・ラビットという魔物の肉か。であれば、もうアサシン・ラビットを食べても力を得るスキルが発動する事はないであろう」


 なるほど。

 つまり、色んな種類の魔物を沢山食べると、強くなれるという事か。

 ただ、この地は魔物の数は多くとも、種類は少ないので、あまり効果は得られ無さそうだが。


「我が社の近くでも話したが、あの辺りの近くには村があったのだ。今も全てがそのまま残っている訳ではないであろうが、何かしら形跡は残っていると思われる。そういう場所は、魔物の隠れる場所となり易いので、巣が出来ているかもしれぬな」

「つまり、今まで俺たちが遭遇していない魔物が居るかもしれないという事か?」

「その通りだ。ただ、アレックスが今以上の強さを欲する訳でなければ、無理に行く必要はないがな」

「そう、だな。あの四天王ベルンハルトのような魔族が居るのであれば、もっと強くならないといけないが、そうでなければ、俺はこの三人を守れる力があれば十分だ。無理に強くならなくても良いよ」


 あくまで俺の目的は、この地の開拓であり、地上に限って言えば、シャドウ・ウルフしか出現しない。

 シャドウ・ウルフであれば今の俺でも一人で倒す事が出来る。

 鉄を得る為であれば、アイアン・スコーピオンを倒せば少量であるが得られるし、肉もアサシン・ラビットから得る事が出来る。

 今はそれ以上を求める必要は無いだろう。

 下手な事をして、三人を危険に晒す方が俺は嫌だ。


「そうか。ただ、神のスキルを授かっているアレックスならば、もしかしたら魔王を……いや、何でもない。一先ず、食事は非常に満足した。ありがとう。出来ればで良いのだが、酒を……酒を作ったら、是非我に分けて欲しい。あれは、我の力が大きく回復する薬なのだ」

「薬? 酒が……か?」

「うむ。龍にとって酒は非常に大切な物だからな。我の力が回復すればする程、アレックスに協力出来る事も多くなるだろう。そうだな……例えば、空を飛んで近くの人里へ行くとか……」

「――っ! なるほど。それは有難いな! 分かった。もしも酒が作れたら、シェイリーの所へ持って行くよ」

「うむ。是非、頼む。一先ず、そろそろ社を離れられる時間に限界が来ていそうなので一旦戻るが、暇なので……こほん。アレックスたちの様子を見に、また来る。では!」


 そう言って、シェイリーが小屋を出ると、すぐさま龍の姿になって、森の向こうへと消えて行った。

 今は、龍になっても行動範囲が狭いだろうが、遠くまで行けるようになれば、リディアをエルフの森に帰してやる事が出来るし、ニナ……がどこから来たか聞いていなかったが、故郷へ帰してあげられるかもしれない。

 一先ず、これからは街があるという南への開拓を続けつつ、酒造りについて調べてみよう。

 改めて、今後の方針を決めた所で、


「ねぇ、アレックス。ちょっとだけ気になる事を言っていい?」


 何やら不安そうな表情を浮かべたエリーが話し掛けてきた。


「どうしたんだ?」

「あのね、ここって魔族領でしょ? おそらく、あのベルンハルトっていう魔族が治めていたと思うんだけど、その治めていた魔族が居なくなったって事は、いずれ魔族側というか、魔王側にも伝わるんじゃないかな?」

「土地を治めている以上、何かしらの報告をしているのではないかって事か?」

「うん。とは言っても、魔族の生態とか規律なんて知らないから憶測に過ぎないんだけど、仮にそういう定期報告があったとして、それがなかったら、別の四天王とか他の魔族とかが、ここの様子を見に来ないかな?」

「つまり、あのベルンハルトと同じくらい強い魔族が来る……いや、最悪の事を考えると、シェイリーを再び封じようと魔族の軍団が来る可能性があるのか。わかった! さっきシェイリーに言っていた事は撤回する。出来る限り沢山魔物を食べて、俺は強くなる! エリーたちを守れるように!」


 エリーの指摘で考えを改め、今後は新たな魔物を求めて地下洞窟の探索と、南への開拓、そしてシェイリーの力を回復させる為の酒造りに取り組む事にした。

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