挿話12 謎の組織の管理下に置かれる勇者ローランド

「だから、何度も言っているだろうがっ! あれは正当防衛だっ! 俺だけ一方的に捕らえるのは不公平だろうがっ!」

「うるせぇっつってんだろうがっ! ローランド。お前は勇者でS級冒険者だからって、調子に乗り過ぎなんだよ! お前がいくら喚こうが、もう処罰の内容は覆らねぇよっ!」


 昨晩、宿の食堂で酒を飲んでいたらモニカがやってきて、いきなり俺の左手を魔法で燃やしやがった。

 それだけでなく、何かの魔法を使って俺を転倒させたというのに、どういう訳か一方的に俺が悪い事にされていて、今も冒険者ギルドの地下室に拘束されている。

 ……目の前のギルドマスターは、現役を退いたとはいえ元S級冒険者なので、強行突破は難しいだろう。

 というか、この状況で脱走なんてしようものなら、この国――カロリンギ国で間違いなく冒険者として活動出来なくなる。

 だからと言って、あまりに一方的すぎる拘束に苛立ちを覚えていると、


「失礼。待たせてしまってすまない」


 見知らぬ男が入って来た。


「急な話ですまないな。コイツが例の勇者だ」

「ふむ、なるほどな。見た所、最初は猫を被って、大人しくしていた犬といったところか」

「てめぇ……どこの誰だか知らないが、俺の事を犬呼ばわりしたのかっ!? 死にたいらしいな!」


 俺は勇者なんだぞ!?

 相手を殺さずに、手加減した強行突破は難しいが、最初から相手を殺す気で行けば話は別だ。

 剣こそ取り上げられているものの、魔法が使えない訳ではないからな。


「ローランド、やめとけ。二対一で勝てると思うな」

「やってみなけりゃ分からないだろ? 勇者のスキルを舐めない方が良いぜ」

「ふっ……やはり犬だな。弱いくせによく吠える」


 決めた。誰かは知らないが、殺してやる。

 こいつは剣を持っているが、ギルドマスターは丸腰……先ずはこいつを殺して、その次にギルドマスターだ。


「後悔はあの世でしやがれっ! ≪サンダー・ブレード≫!」


 剣が無いので、代わりに俺の右腕へ雷の力を付与して……発動しない!?

 その直後、


「まったく、お前は……バカだな」


 ギルドマスターの呆れた様子の声が聞こえたかと思うと、腹と右腕に凄まじい衝撃が走る。


「ぐぁぁぁっ! 腕が……俺の右腕がぁっ!」

「俺が武器を持っていないから勝てるとでも思ったのか? ……というか、俺のジョブを知らないのか。別に隠していないし、有名だと思っていたんだがな」

「まさか……素手で戦うジョブなのか!?」

「まぁそんな所だ。とりあえず、右腕は折っておいた。後で誰かに治療させるが、これ以上は暴れない事を勧める。次は左腕と脚を折る事になるし、そもそもこの部屋は魔法が使えないように封印されているからな」


 クソがっ! よくも勇者である俺の腕を折りやがったな! 絶対に許さねぇっ!


「とまぁ、こんな感じなんだがな」

「はっはっは、ご安心を。我々は、こんなバカでも立派な勇者に矯正してきましたからな」

「そうか。ならば、すまんが頼むよ」

「承知しました。私が責任を持って、この者を魔王の元へと送り込みましょう」


 こいつらは一体何の話をしているんだ!?

 矯正!?

 魔王の元へ送り込む!?

 ……勇者の魔王討伐なんて、ただの建前だろうが!

 勇者の優れたスキルを使って、S級冒険者と崇められながら、緩い魔物退治をして生計を立てる……それが普通の考え方だろっ!

 俺は魔王なんかの所へ行く気なんて、さらさら無いからなっ!


「おい! さっきから黙って聞いていれば、何を勝手な事を言っているんだ! 俺は魔王なんかと戦わないぞ!」

「いえ、戦ってもらいます。貴方は数少ない勇者なのです。確かこの国には、貴方を含めて二人しか勇者が居ないはず。もう一人も、我々と共に魔王討伐の為の修行を行っておりますし、貴方にも努力していただきましょう」

「だから、どうして俺がそんな事をしなければならないんだっ! 確かにジョブは勇者だが、俺は冒険者だ。俺は、俺の目的の為に自由に生きる!」


 怒りで身体の痛みを忘れる程に叫んでいると、


「いや、違うな。ローランド。残念ながら、お前はもう冒険者ではない。昨晩の一件で、冒険者ギルドから除名処分となっている」


 ギルドマスターがふざけた事を言ってきた。


「はぁっ!? 除名……って、ふざけんなっ! たかが酒の席での、冒険者同士のケンカだろうがっ! その程度の事で除名なら、この国から冒険者は居なくなってるだろっ!」

「確かに、ただのケンカなら除名処分は重過ぎだ。だが、剣を抜いてスキルまで使った上に、そもそもお前はS級冒険者だ。模範となるべき者が、公の場で格下――A級冒険者相手に手を下そうとするなど言語道断。日頃の行いの悪さもあり、除名処分とした」

「なっ……ば、バカじゃないのか!? ふざけるのも大概にしろよっ!」

「二つ選択肢をやる。一つは、この者と共に勇者の使命を全うする事。そうすれば、除名処分は撤回してやってもいいし、さっき俺たちに襲い掛かろうとした事は忘れてやる。もう一つは、除名処分を受け入れる事だ。ただしその場合、先程の件で罪人となるだろう」


 何だと!? そんなの選択肢になっていないだろうがっ!


「仲間は……俺には仲間が居るんだが」

「昨晩の事は既に伝えてある。お前と共に行動をするか、離れるかは本人次第だな」

「……そうか。そういう事なら良いだろう」


 俺は勇者だからな。

 長い付き合いのステラはもちろん、皆行動を共にしてくれるだろう。

 だが、この男が一緒というのは気に食わないな。

 せっかくアレックスを追い出し、女ばかりのパーティにしたというのに。


「ところで、この男は誰なんだ? 行動を共にしろとか、勇者がどうだとかって言っているが、勇者のジョブはレアなんだろ? コイツが勇者の何を知っているんだよっ!」

「あぁ、自己紹介が未だでしたね。私はダニエル。勇者を導くジョブ、テンプルナイトだ」

「テンプルナイト? そんなの聞いた事がないぞ!?」

「まぁ勇者程ではないが、こちらもレアですからね。神殿騎士とも呼ばれる我々は、世界を平和に導く中央神殿に属しており、世界中の落ちこぼれ……こほん。もとい迷える勇者を救うのです。さぁ、これから共に頑張ろうではありませんか」


 そう言って、ダニエルとかいう奴が握手を求めてきた。

 クソがっ! 俺は男に用なんて無いんだよっ!

 どうせなら女を連れて来やがれっ!

 中央神殿とかいう、怪しげな組織から来た変な男がパーティに入る事を、女性陣にどう説明すべきか、頭を悩ませる事になってしまった。

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