挿話13 勇者パーティに入った翌日に、パーティが解散する事になってしまったウィッチのフィーネ

 昨日、勇者であるローランド様に拾っていただいた。

 これでようやく、ご飯にありつける。

 大した魔法は使えないけれど、拾ってくれた御恩をお返しする為に全力で頑張ろうと決め、初めての依頼を終えた翌朝、


「えぇっ!? ローランド様が宿でケンカして、冒険者ギルドに拘束されたんですかぁっ!?」

「そうらしいわよ。それでギルドの職員さんの話によると、中央神殿っていう世界中の勇者を管理する組織に連れて行かれる事になるんですって。それで、私たち――もちろんフィーネ、貴女も含めて、身の振り方を考えなければならないの」


 パーティの先輩であるステラさんから、ローランド様が捕まったという話を聞かされた。

 そんな……勇者っていう凄いジョブの人に拾ってもらえて、凄く幸運だと思っていたのに。

 やっぱりフィーネは不幸の星の下に生まれているんですっ!

 幸せになれない運命なんですっ!


「あ、あの、ステラさん。そのローランド様が連れて行かれるっていう、中央神殿って何なんですか?」

「さぁ。私も初めて聞いたんだけど、ギルド職員――タバサさんの話によると、別の国にあるらしいわよ」

「という事は、実質ローランド様のパーティは解散という事になるんですか!?」

「そうなるわね。一応、ローランドについて行く事も出来るらしいけど、オススメはしないかな。少なくとも、私とグレイスはローランドについて行かないわよ」


 そんなっ! 怪我をしたら治してくれる優しいステラさんに、魔物と超接近戦を繰り広げる凄いグレイスさんの二人ともがパーティから抜けちゃうなんてっ!


「あぅぅ……やっぱり別の国に行かないといけないからですよね?」

「それだけが理由ではないんだけど……そうね。フィーネは入って間もないから分からなかったかもしれないけど、ローランドは隙あらば貴女を襲おうとしていたわよ?」

「えっ!? フィーネを襲う? フィーネは、持ち物なんて杖とローブくらいですし、高価な物なんて何も持ってないですよ!?」

「そういう事ではなくて……ま、まぁいいわ。グレイスと私は新たに仲間を募って活動しようかって話をしているんだけど、フィーネも一緒に来る?」

「は、はいっ! 行きたい……です。でも、フィーネは足手纏いになりませんか? その、ハッキリ言って、魔法使いなのに攻撃魔法が得意じゃないですし」


 フィーネはウィッチっていう珍しいジョブなんだけど、どういう訳か、どれだけ練習しても攻撃魔法が上達しない。

 フィーネに才能が無いのか、ウィッチっていうジョブの特性なのかが気になる所だけど、何でもウィッチっていうジョブは、殆ど前例が無いくらいに珍しいジョブらしくて、冒険者ギルドでも分からないって。

 うぅ……ウィザードとか、メイジとかっていう、もっと普通のジョブで良かったのに。


「フィーネ。誰だって、最初から何もかも上手い訳ではないわ。私だって、最初は低位のロー・ヒールから始めて、様々な魔法が使えるようになったの。だから、貴女もこれから練習すれば良いじゃない」

「あ、ありがとうございますっ! ステラさんっ!」


 ステラさんについて来て良いと誘ってもらえたので、ホッと胸を撫で下ろし、改めてグレイスさんにもお世話になる旨を伝える。

 そして、三人で冒険者ギルドへ行くと、地下にある部屋へ案内された。


「失礼します。ギルドマスター、ステラさんたちがお見えになりました」

「分かった。入ってもらってくれ」


 タバサさんに連れられて中に入ると、ローランド様と鎧に身を包んだ男性、それからゴリラみたいな凄いマッチョな人が座っていた。

 何でも、このゴリラさんがギルドで一番偉い人らしい。

 あの腕、フィーネの脚より太いんだけど……一番強い人が一番偉い人なのかな?


「すまないな。ざっくり経緯はタバサから聞いていると思うが、ローランドはこっちのダニエルと行動を共にする事となったんだ。で、三人はどうする? 一緒に行動を共にしても良いし、もちろん離脱しても良い。決定権は、そっちにあるぜ」

「私たち三人で話し合った結果、全員離脱する事にしたわ。ローランド、今までお疲れ様」

「な、何だとっ!? ステラ、まさか……お前も、エリーみたいにアレックスの所へ行こうって言うんじゃないだろうなっ!?」


 エリー? アレックス? ……確か、ローランド様とステラさんが元々組んでいた仲間だっけ?

 ステラさんが、アレックスさんっていう人の事を凄くベタ褒めしていたから、もしかして好きなのかも! って思って、話を聞いた時はドキドキしたんだけど、実際はどうなのかな?

 どんな事からでも絶対に守ってくれる、真の意味での騎士みたいな人だって言っていたけど。

 もしもアレックスさんに会えたら、フィーネの事も守ってくれるかな? ……不幸な宿命から。

 ふと、そんな事を考えて居ると、


「私たちの事は、もう貴方には関係無いわ。さよなら」


 ステラさんがスタスタと部屋から出て行き、グレイスさんも続こうとする。


「待てっ! くっ……そうだ、グレイス! お前は元々B級冒険者だろっ! 誰のおかげでS級冒険者パーティに入れたと思っているんだ!」

「……」


 うわ……グレイスさん、ローランド様の事を完全に無視っていうか、めちゃくちゃ睨んで出て行った。

 フィーネがパーティへ入る前に、何かあったのかな?

 一先ず、二人に続いて一緒に出て行こうとしたら、


「フィーネ。お前はE級冒険者だろ。どうして、クソ弱いお前が勇者パーティに入れて貰えたのか、分かっているのか?」


 ローランド様から、難しい事を言われてしまった。


「……? わ、分かんないです」

「身体だよ。お前のザコ魔法なんて戦いで使える訳がないだろ。お前は、そのデカい胸で……ごふぁっ!」

「お嬢ちゃん、悪かったな。一先ず、これでこのバカに関わる必要はない。新しいパーティで頑張ってくれ。何かあれば、俺が相談に乗るから、遠慮なく言ってくれ」


 ローランド様が何を言いたかったのかは良く分からなかったけど、ゴリラさんが相談に乗ってくれるっていう事は分かったので、一礼して部屋を出ると、


「畜生っ! このクソアマ共がぁぁぁっ!」


 廊下にローランド様の叫び声が響き渡る。

 クソアマって何だろ?

 とりあえず難しい事は置いておいて、ステラさんやグレイスさんの役に立てる様に頑張ろーっと!

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