第38話 魔物酒の仕込みと、シェイリーへ酒のプレゼント

「とりあえず、こんなところか?」

「そうですね。私は葡萄酒以外あまり詳しくありませんが、特に問題無い気がします」

「うん。ニナのパパも、そんな感じに漬けていた気がするよー」


 朝食を済ませた後、モニカやニナに聞きながら、蒸留酒に魔物を漬けてみた。

 ちなみに漬けた魔物は、グリーン・スコーピオンとアイアン・スコーピオン。それから、昨日エリーたちが捕まえてきてくれた、ロックパイソンという蛇の魔物だ。

 どれくらいの期間漬ければ良いかは分からないが、一先ず送られて来た箱の中に瓶を戻し、暫く置いておく事にした。


「ん? よく見たら、タバサが送って来た箱の中に、葡萄酒も入っているのか。葡萄酒は魔物を漬けるのに向いていなさそうだし、これはシェイリーにあげようか」

「ご主人様。シェイリーさんというのは、確か青龍なのでしたっけ?」

「あぁ。とはいえ、人間の姿だと子供にしか見えないから、神獣とは思えないけどな」


 シェイリーが森を作ってくれたおかげで、木材や薪が手に入り、リディアに頼らなくても調理に火が使えるようになっている。

 リディアの負担を下げてもらった訳だし、お礼として早速持って行こう。


「じゃあ、地下洞窟だし、俺とエリー、モニカの三人で行くか?」

「お兄さん。ニナも行くよー!」

「分かった。だったら、リディアだけ留守番っていうのもどうかと思うし、全員で行こうか」


 モニカが来る前と同じ様に、全員で地下洞窟へ行く準備をする。


「アレックス。松明はどうする? 持って行く?」

「いや、今回は俺が居るから良いんじゃないか?」

「分かったわ。松明はちょっと重いから、持たなくて良いのは助かるかな」


 シェイリーのおかげで使えるようになった物として松明もあったと、改めて感謝しつつ、シェイリーの所へ。

 ちなみに、モニカとエリーがサクサク魔物を倒して行くので、俺の役目は照明と荷物運びしか無く、この二人なら、安心して魔物の探索を任せられそうだ。

 そして、暫く歩くと小さな社が見えて来た。


「シェイリー、居るか?」

「ん……おぉ、アレックスではないか。会いに来てくれたのか?」

「あぁ。新しいメンバーが来たから、その紹介とちょっとした手土産があってな。……で、こちらの女性が新たなメンバーのモニカだ」


 俺の言葉で、モニカが幼女姿のシェイリーの前へ移動し、


「マジックナイトのモニカです。宜しくお願いします」


 深々と頭を下げる。


「シェイリーだ。今は人の姿をしておるが、青龍だ。よろしく頼む……しかし、どうしてお主の鎧は、胸の部分がこんなに膨らんでおるのだ?」

「えーっと、私は胸が大きくて、普通の鎧が着られないので、特注で作って貰って……」

「ほぉ……これだけ胸が大きければ、かなり重そうだな」

「そ、そうですね。肩は凝りますね」


 えーっと、シェイリー? 何の話をしているんだ?

 だが、モニカの胸が重いというのは昨晩実体験したから、よく分かる。

 五人で暮らすには手狭な小屋の中で、誰がどこで寝るかという激しいジャンケン大会の末、俺の右側にエリー、左側にモニカとなった。

 そこで、何故か二人とも俺の腕を胸で挟むようにして眠ってしまい……柔らかいのだが、腕にかかる重さは中々の物だったんだよ。

 その上、いつも通りニナが俺の胸の上で寝るから……あれ? 今更だけど、昨晩の俺は皆の抱き枕にされていたのか?


「……あの、ご主人様。シェイリー殿にお土産があるのでは?」

「そうだった。シェイリー、前に希望していた酒を持って来たんだ」

「おぉっ! それは、すまないな。酒は我の力の回復に一番効く。有り難く貰うとしよう」


 タバサから送られて来た、小さな樽を社の側へ置くと、


「そうだ。酒の礼という訳ではないのだが、前に話した黒髪の者たちの村の場所を思い出したのだ。行ってみるが良い。もしかしたら、魔物の巣が見つかるかもしれん。……とはいえ、この状態だから、残っているかは分からぬが」


 シェイリーが、社から西へ行った所に村があったと教えてくれて……チラチラと酒の樽に目をやる。

 あぁ、早く酒を飲みたいのか。

 シェイリーが村の場所を教えてくれたのは、別に俺たちを遠ざける為ではなく、本当に思い出したからだろうが、暫くぶりとなる酒のはずだし、早く飲ませてあげようか。


「分かった。じゃあ、俺たちはこのまま西へ行ってみるよ。ありがとう」

「気を付けて行くのだぞ。ここまで戻って来たら、小屋までは我が送るからな」


 そう言って、シェイリーが笑顔で見送ってくれるのだが……よだれっ! 口の端から、よだれが出ているぞっ!

 とりあえず、心の中だけでツッコミ、俺たちは西に向かって移動する事にした。

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