第39話 大量のオークと、やらかしシェイリー

 シェイリーに教えてもらった通り、皆で西へ向かって歩いて行くと、


「アレックスさん。この先に、何かありますよ」


 リディアが暗闇の中で何かを見つけた。

 盾に灯した照明では未だ照らせないが、リディアの指示に従って進むと、壊れた壁に辿り着く。


「これは……家だったのか?」

「んー、村を囲む防壁だったんじゃない?」

「いずれにせよ、シェイリーの言う通り、村があったのかもな」


 ボロボロになったレンガ造りの壁をエリーと一緒に調べていると、


「お兄さん。こっちにもあるよー」


 ニナが同じような壁を見つけた。

 その直後、


「アレックスさん! 何か……居ます!」


 リディアに呼ばれて慌てて向かうと、その視線の先には大きな人が歩いている事に気付く。

 その姿を見て、黒髪の人の子孫が生き残っていたのかと一瞬思ったが、灯りに照らされた顔は緑色の豚だった。


「皆、気を付けろっ! オークだっ!」


 普通のオークであれば、大した事はないが、ここは魔族領だ。

 同じ強さとは限らない。

 それにオークといえば、人間を含めた、どんな種族とも子を為そうとしてくる、女性の天敵と呼ばれている魔物だ。

 四人を絶対に守らなければ。


「オークとか最悪っ! ≪アイス・ジャベリン≫」

「≪大地の槍≫」

「≪ミドル・フレイム≫」


 エリーの魔法を皮切りに、リディア、モニカと魔法の攻撃が続く。

 幸い、俺たちの認識通りの強さで、特殊なオークではなかったのだが、奥からわらわらとオークが溢れ出て来る。

 数が多いっ!

 一体、どれだけ繁殖しているのか、倒しても倒してもキリがなく、俺とモニカ、ニナの三人で近寄ってきたオークを倒しまくる。


「アレックス。村の跡がちょっと壊れても良いかな?」

「そうだな、頼む。モニカ、ニナ。少し下がるぞ」


 俺の合図で後ろに下がると、


「≪ブリザード≫」


 エリーの範囲魔法でオークたちが凍り付いていく。


「ありがとう、エリー。一先ずもう現れない……か?」

「この辺りは大丈夫じゃない? アレックス、念の為に魔力を分けてもらっても良い?」


 魔法を連発していたエリーに魔力を分けると、リディアとモニカも魔法を使ったからと、近寄って来た。

 二人にも魔力を分けた所で、何故かニナが俺の手を取る。


「ニナだけ仲間外れはイヤー!」


 単にニナが魔法を使って居ないから、魔力を分ける必要が無いだけなのだが、ちょっと拗ねている。

 一先ず、手を繋いだまま頭を撫でると、満足そうにしていたので、大丈夫だろう。


「とりあえず、オークの肉を持ち帰って、改めて調査に来ようか」


 斬り倒したオークの内、良い感じに凍っていた肉を手にして、ニナが作ってくれていた光苔の道を引き返して行くと、シェイリーの社へと戻って来た。

 一瞬、この光苔の道を辿って生き残りのオークが社へ来ないかとも思ったが、ある程度近付くと魔物の類が現れなくなったので、シェイリーの力で、結界的な何かがあるのかもしれない。


「あ、居た居た。おーい、シェイリー。地上へ送って……シェイリー?」

「む……アレックスではないか。……という事は、おっぱい鎧も一緒だな?」

「おっぱい鎧って、私の事……ですか?」


 モニカが困惑しながら俺に聞いて来たけど、俺に聞かれても困るのだが。

 まぁ、この中で鎧を着ているのは俺とモニカだけだし、おっぱい……となると、必然的にモニカとなるけど、何の話だ?


「……羨ましいな。この鎧の中にある凶器で、アレックスと乳繰り合っているのだろう? 我も久々に人肌に触れたいぞ、アレックス」

「あの、シェイリー? 何を言って……って、ちょっと待て。随分と酒臭くないか?」

「アレックス……我とも乳繰り合わぬか? この者のように大きな胸は無いが、それはそれで良きものだぞ?」


 シェイリーが、抱きついて来て……って、何処に手を伸ばそうとしているんだよっ!


「アレックス。さっき渡した酒樽が空になっているわよ!」

「え、もう!? 小さいとは言っても、樽なんだが」

「ふふふ……葡萄の酒とは珍しかったので、ついつい飲み過ぎでしまったのだ。だが、アレックスよ。次は是非、米の酒を頼む。これはこれで良いのだが、やはり酒は米! あの米をギリギリまで削り、良い所だけを使った酒は至高の味だ」

「米の酒? そんなの聞いた事が無いんだが」


 よく見れば、シェイリーの顔が真っ赤に染まっている。

 ここまでくると、俺が使える中位の状態回復魔法では治せないかもしれないな。

 そんな事を思いつつ、治癒魔法を使用したのだが、


「≪リフレッシュ≫……って、あれ? 発動しない?」

「ふっふっふ……アレックスったら。せっかく我が気持ち良くなっているというのに、つれないではないか。さぁアレックスも、我と一緒に気持ち良くなろう!」


 何故か治癒魔法が使えず、シェイリーが顔を擦り付けてきた。


「ご主人様っ! その役目は私がっ!」

「モニカさんも一緒になって、何をしているのよっ! シェイリーさんも離れてっ!」

「エリー殿、ここは便乗しておくべきでは?」


 モニカが意味不明な事を言いながら、俺の前で膝立ちになり、


「ダメーっ!」

「む? エリーも混ざらぬのか?」

「混ざらないわよっ!」


 シェイリー共々、エリーに引っ張られて行く。

 いや、シェイリーもモニカも、マジで何をしているんだよっ!


「……二人とも、お兄さんに抱きついて、何をしていたのー?」

「ふふっ。これは、古来より続く男女の……」

「ニナちゃんに変な事を教えないでっ!」


 とりあえず、シェイリーに酒を渡した後は、暫く近付かない事にした。

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