挿話16 微妙だけど、初めてのキスに喜ぶエルフのリディア
「じゃあ、俺たちは開拓をしていこうか」
「そうですね。よろしくお願いいたします」
エリーさんとモニカさんが地下洞窟の探索を担当する事になり、私とアレックスさんが二人で開拓作業をしていく事になった。
だけど、エリーさんの策略により、
「待って、待って。お兄さん、ニナは何をすれば良いのー?」
何故かニナさんが地上組に混ざっている。
ニナさんはドワーフで、鉄や土の採掘を行うので、普通に考えれば、地下洞窟を探索すべきなのに。
おそらく、私とアレックスさんを二人っきりにしたくないのだろう。
だけど残念ながら、その考えは正しい。
アレックスさんに奴隷から解放してもらった直後は、二人っきりだったので、焦らずじっくり行こうと思っていたけれど、今は違う。
この無邪気なニナさんでさえ、アレックスさんを狙っているし、とにかくライバルが多いので、何とかこの機会を逃さずに、親睦を深めなければ。
そんな事を考えていると、
「そうだな……小屋にモニカの荷物と一緒に酒が届いていただろ? さっき凍らせて持ち帰ったサソリを、その酒に漬けておいてくれないか?」
「うん! わかったー!」
ニナさんが小屋の中で仕事をする事になった。
これはチャンス! アレックスさんとの久しぶりの二人っきり!
このチャンスを有効活用しないとね。
「それじゃあ、リディア。俺たちは南側を広げに行こうか」
「はい、分かりました」
南に向かって歩き出した所で、
「あの、アレックスさん。おんぶ……いえ、昨日のニナさんみたいに、抱きかかえてくれませんか?」
「リディア? どうしたんだ? 体調でも悪いのか?」
「いえ、そういう訳ではないのですが、私は殿方に抱きかかえられるのが夢だったので」
「そうなのか? でも、それをするのが俺で良いのか?」
「はい、もちろん!」
ふふっ……アレックスさんにお姫様抱っこしてもらった。
私も、アレックスさんの首に腕を回し、私の顔をがっしりとした肩に乗せる。
アレックスさんが、少し横を向いてキスしてくれたら最高なんだけど……どさくさに紛れて、私からしちゃおうかしら。
アレックスさんの頬へ触れるか触れないかというキスをしてみようと、私の顔を近付けて行った所で、
「お兄さーんっ! どーんっ!」
妙にテンションの高いニナさんが、後ろから突撃してきた。
「ニナ? どうしたんだ?」
「えへへ……あのね、あのね。ふわふわしてて、ほわほわしてて、大好きなお兄さんが沢山居るのー!」
「ニナは一体、何を言っているんだ? ……って、もしかして酔ってる!? ニナ、お酒を飲んだのか!?」
その直後、アレックスさんが私を地面に降ろし、神聖魔法でニナさんの状態異常を治療する。
正気に戻ったニナさんによると、冒険者ギルドから送られてきた荷物の中に似たようなビンが幾つかあり、どれがお酒か分からなかったから、飲んで確認してみたのだとか。
「ニナ。大丈夫だとは思うが、気持ち悪かったり、頭が痛かったりしないか?」
「うん。お兄さん、ごめんね」
「いや、俺も荷物をちゃんと確かめずに依頼して悪かった。一先ずニナも開拓を手伝ってくれるか?」
「はーいっ!」
結局、アレックスさんとニナさんが畑を耕し、私が作物を作る事になって、二人っきりにはなれなかったんだけど……ふふっ。アレックスさんは気付いていないかもしれないけど、ニナさんがぶつかって来た瞬間、ほんの少しだけ、私とアレックスさんの唇が僅かに触れたのよね。
キスとは言えないかもしれないけど、これで私の初めてはアレックスさんになったもん!
それから、皆で家に戻ると、
「……リディアさん。何かあった?」
「いえ? 特に何もないですけど?」
「……そう。何だか、ニコニコしているから、何かあったのかと」
エリーさんに気付かれかけてしまった。
つい顔に出てしまっていたみたい。
変に勘繰られても嫌なので、いつも通り、何も無かった事を装いながら、夕食の前のお風呂へ。
あの低俗巨乳のモニカさんが何かやらかすのではないかと構えていたけど、意外にお風呂では大人しい。
「……モニカさんは、意外と普通に入られるのですね」
「ん? あぁ、私が全裸でご主人様へ抱きつくとでも思ったのか。流石にそこまで露骨な事はしないさ。間違いなく変な女だというレッテルを貼られてしまうしな」
「なるほど。確かに、そんな事が出来るのは、ニナさんくらいですもんね」
そう言って、目線を話題のニナさんに移す。
そのニナさんは今日の葡萄の件で、日々の身体の洗い方が不十分だと言われ、アレックスさんに身体を洗われている。
逃げられないようにと、アレックスさんに抱きしめられ……いいなぁ。私もアレックスさんに身体を触っ……もとい、洗って欲しい。
ただ、不潔な印象を持たれるし、そもそも汚いのは嫌なので、真似はしないけど。
「……まさか、本当に……。でも、アレは変な意味ではなく、アレックスが綺麗好きだからよね? だけど……」
一方で、エリーさんがアレックスさんの背中を凝視しながら、何かを呟いている。
よく分からないけど、必死な感じがするので、声を掛けない方が良いかも。
「リディア。すまないが、水をお願い出来ないか?」
「はい。では、出しますよ。……≪恵の水≫」
「ひゃあぁぁぁっ! 冷たいよーっ! お兄さん助けてっ!」
シャワーのように頭上から水を出すと、ニナさんが全裸でアレックスさんに抱きつく。
アレックスさんも、そうなる事が分かっているので、ニナさんを抱き留め……本当に羨ましい。
水を止め、アレックスさんが腕を離すと、ニナさんが浴槽へダイブしたので、私たちも浴槽へ。
「……ニナちゃんが抱きついて来たのを、当然かのようにアレックスが受け止めてた……」
「……あぁ。しかも、それを見ても、リディア殿は一切動揺していなかった。やはり二人は手を組んでいるのだろう……」
よく聞こえなかったけど、エリーさんとモニカさんが、私を見ながら二人でこそこそ話していた。
……ふんっ! どうせ、私の胸が小さいとか、そんな話でしょっ!
胸が大きければ良いってものじゃないんだからーっ!
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