挿話5 アレックスの代わりが酷過ぎて崩壊間近の勇者パーティを、抜けようと思っているアークウィザードのエリー

「きゃあっ!」

「ステラっ! このっ……≪サンダーボルト≫!」


 ステラに攻撃してきた魔物を雷の魔法で倒すと、慌てて駆け寄る。


「大丈夫!?」

「うん。とりあえず魔法は使えるから、自分で治すね」


 そう言って、ステラが自分自身の怪我を治し始めたので、


「ちょっと、ローランドっ! ちゃんと敵を止めてよっ!」

「くっ……悪かったな」


 後衛まで敵を通してしまったローランドに文句を言っておく。

 というのも、アレックスが抜けた後、ローランドが後任として考えていたモニカさんに断られた結果、ローグのグレイスさんがパーティに加わった。

 ローグは両手それぞれに短剣を持つ、双剣士とも呼ばれる攻撃特化のジョブなので、必然的にローランドが私たちを守る役となる。

 その事に、私もステラも凄く不安を抱いていたんだけど、ローランドが勝手にギルドで依頼を受けてきてしまったので、行くしかないという状況になってしまっていた。


「魔物……倒し終えました。ステラさん、大丈夫ですか?」

「えぇ、何とか」

「すみません。私がもっと早く魔物たちを倒せていれば」

「いえ、グレイスさんは悪くないですよ。あれだけの魔物を捌いてくれていますし。それに大勢居る魔物たちを、攻撃されるよりも早く全滅させるなんて、どう考えても無理な話ですから」


 グレイスさんが魔物を殲滅させると、すぐにステラの元へ駆け寄り、心配そうに声を掛ける。

 だけど実際ステラの言う通りで、魔物の集団と遭遇して、相手に一度も攻撃させずに倒すなんて出来る訳が無い。

 だからこそ、私たち後衛はアレックスみたいに守ってくれる人が必要なんだけど、


「何だよ、ステラ。グレイスは悪くない……って、つまり俺が悪いって言いたいのかよ!」


 アレックスに代わって、魔物から後衛を守る役を担う事になったローランドが、不機嫌そうに言う。

 というか、実際自分で言っている通り、誰が悪いかと言えばローランドが悪い。

 攻撃役をグレイスに任せたにも関わらず、ローランドは防御よりも攻撃寄りの位置にいて、攻撃しようとしている魔物よりも、弱っている魔物を狙って攻撃している。

 その結果が、これだ。

 魔物の攻撃を許し、ステラが攻撃を受け、不機嫌になってパーティの雰囲気を悪くする。


「次は気を付ける。だが、ステラやエリーも多少は自分で避けてくれ」


 そんなの、出来る訳ないじゃない。

 私もステラも、高位の魔法を使う為、魔力の制御に集中しているんだから。

 制御がおろそかになったら、魔法が発動しなかったり、最悪グレイスやローランドに攻撃魔法が当たってしまうのよ!?


 ……この前、タバサさんから「アレックスに断られたから、一旦今まで通りの活動を続けて欲しい」って言われたけど、やっぱり私の名前をアレックスに伝えてもらおう。

 そうすればアレックスだって、きっと門前払いにはしないはず。

 そして、誰にも邪魔されない二人っ切りの家で、アレックスと幸せに暮らすんだ。

 慣れるまでは大変かもしれないけど、住めば都っていう言葉だってあるし、何より大好きなアレックスと一緒に暮らすんだから、絶対に大丈夫よっ!

 今度こそ、私を守るっていう約束をアレックスに貫き通してもらうんだからっ!


「……ちゃん! エリーちゃんってば!」

「ふぇっ!? す、ステラ!? ど、どうしたの!?」

「どうしたの……は、こっちの台詞よ。大丈夫? ボーっとしていたけど。何か状態異常の魔法でも掛けられたの?」

「えっ!? そういうのじゃ無いと思う……よ?」


 まぁ確かにアレックスの事を考えて、ちょっと現実逃避しちゃっていたけどさ。

 周囲に魔物も居ないし、そういうのではないと思う。


「そう。でも気を付けてね。アレックスさんは、パラディンのスキルで状態異常すら防いでくれていたけど、ハッキリ言って今のパーティは、非常に脆いと思うの。例えば、私が麻痺とか沈黙とかの状態異常を受けてしまったら……」

「あ! 誰も回復魔法を使えない!」

「そういう事。アレックスさんは、中位の治癒魔法が使えたはずだから、最悪私に何かあっても……いえ、そもそもアレックスさんが居れば、私に何か起こらないものね」

「うん。誰かさんとは違って、ちゃんと私たちの事を守ってくれたもんね」

「そうね。アレックスさん……戻って来てくれないかしら」


 ステラが溜息を吐く様子を見て、ふと気付く。

 そうだ。私がこのパーティを抜けたら、ステラも困っちゃうだろう。

 アレックスの所へ行く前に、一言断っておかなきゃ。


「あのさ、ステラ。この依頼が終わったら……話したい事があるの」


 前を歩くローランドに聞こえないように、小さな声でステラに囁き……了承を得た。

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