挿話6 仲間から背中を押され、アレックスの元へ行く決意を固めたアークウィザードのエリー

「クソがっ! 何故だっ! どうしてこんな事になったんだっ!」


 冒険を終えて街へ戻って来ると、ローランドが普段飲まないお酒を飲みながら、大声で叫びだした。

 ローランドがイライラしている理由は、彼が勝手に受けてきた魔物退治の依頼を、私たちが断念――依頼を達成出来なかったからだ。

 アレックスが居なくなり、モニカさんがパーティに入ってくれなかった代わりに、ローランドが私やステラを守ると言ったけど、実際は何度も魔物がこちらへ来た。

 魔物に攻撃されると私やステラは魔法が適切に使えないので、前衛と後衛の連携が全く取れなくなってしまった結果……グレイスが大怪我を負う事に。

 幸い、ステラの治癒魔法で命は取り留めた物の、ローランド以外の三人全員が撤退する事にしたんだ。


「今回の依頼はS級ではなく、A級の依頼なんだぞ!? 治癒魔法で治ったんだから、あのまま進むべきだったんだ! それなのに……」


 ローランドがグレイスを睨みだしたので、ステラと共にグレイスを連れ、宿の三人部屋へ戻る事にした。


「グレイス、ごめんなさい。今回、グレイスは一切悪く無いし、あんな大怪我まで負わせてしまったのに」

「……いえ。怪我を負ったのは、私が連続攻撃に特化したジョブで、頑丈な鎧や盾を装備出来ないからです。それに、魔物を止められず、後衛に攻撃が行ってしまったのも、私たち前衛の責任ですし」

「それは、グレイスさんよりもローランドに責があると思いますけど」


 暫くグレイスさんと話をしたけど、先に寝ると言って、ベッドへ入ってしまった。


「……グレイスさん。大丈夫かな」

「見た所、怪我は気にしてなさそうね。前衛だし、きっと今まで怪我は何度もあったのでしょうね。それよりも、パーティの空気の悪さを気にしている気がするわね」


 グレイスさんがパーティから抜けたりしないかと、ステラが懸念している中、


「あ、あの、ステラ。それなんだけど、実は……」

「エリーちゃんは、アレックスさんの所へ行きたいんでしょ?」


 恐る恐る話を切り出すと、私の考えを読んだかのように、先に言われてしまった。


「えっと……うん。その通りなんだ」

「ふふっ。お昼に話があるって言われた時から、そうじゃないかなって思ってたの。エリーちゃんはアレックスさんの事が大好きですものね」

「う……うん。それで、冒険者ギルドからアレックスが今どこに居るか教えて貰ったの。ちょっと遠い場所に居て、一度行くと暫く戻って来れそうにないんだけどさ」

「という事は、転送魔法で行くような場所なのね? けど、好きな人の側に居られる方が良いわよね」


 それから、ステラにアレックスの事を相談する。

 アレックスが数日前から魔族領に居る事。

 誰も居ない魔族領で、アレックスと二人っ切りで暮らせる事。

 だけど、モニカさんもアレックスの元へ行こうとしている事。


「なるほど。先日のモニカさんの様子を見ている限りだと、アレックスさんの元へ行こうとするのは止められないかもしれないわね」

「やっぱりステラも、そう思う? こっそり聞いたんだけど、アレックスに連絡しろって、タバサさんがほぼ毎日、モニカさんから猛プッシュされているらしいの」

「エリーちゃんがアレックスさんの所へ行ったとしても、数日後にはモニカさんも行きそうな勢いね」


 うぅ……意を決して魔族領へ行くんだから、どうせならアレックスと二人切りが良いな。

 そして、私がアレックスの好きな料理を作って、美味しいって言ってもらって……こ、恋人みたいに過ごすの。


「んー、エリーちゃん。だったら、出来るだけ早く魔族領へ行って、アレックスさんと既成事実を作ってしまえば? そうすれば、モニカさんも諦めて、そっちへ行かなくなるんじゃないかしら?」


 き、既成事実。それってつまり、私とアレックスが……その、あんな事やこんな事をしちゃうって事なのっ!?

 え、えっと、最後にお風呂へ一緒に入ったのが十二歳の頃だっけ?

 あれから、私も女として成長して、それなりに見られても良い身体に……あ、でも、どうしよう。

 タバサさん情報によると、アレックスは今ケダモノ状態らしいから、初めてなのに毎晩……そ、それはそれで嬉しいような気もするけど、私の体力がもつかな?


「……ちゃん! エリーちゃんってば!」

「えっ!? あ、ごめん。ど、どうしたの?」

「たぶん、聞いてなかったと思うから、もう一度言うけど……ローランドさんには気を付けてね」

「ローランドに?」

「えぇ。アレックスさんの所へ行くにしても、向こうは何もない魔族領でしょ? お店なんて無いから、色々準備も必要じゃない。例えば、下着一つとっても、向こうでは売ってないし。その準備中、ローランドさんに気付かれないようにね?」

「し、下着……ど、どうしよう! 私、地味な下着しか持ってない!」

「エリーちゃん? 私が言っているのは下着の話じゃなくて、パーティを抜けようとしている事を、気付かれないようにっていう話なんだけど」


 や、やっぱり初めての時は、勝負下着みたいなのが必要よね?

 そういうのって、どこで買えば良いのっ!?

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