第15話 冷たい水が苦手なニナ。身体を洗いたいけど、お風呂は無い!

「あの、ニナさん。食事の前に、一旦身体を洗ってはいかがでしょうか。その、かなり土まみれというか、汚れているので」

「あ……えっと、実は小屋にお風呂があったりするの?」

「お風呂はありませんが、私がアレックスさんに魔力を貰って、シャワーみたいに水を出せますよ」

「そ、それって、暖かいお湯?」

「いえ、流石に冷たいお水ですね。でも、まだそこまで寒くは無いと思いますが」


 リディアの説明に、ニナが眉をひそめる。

 ニナはお風呂は良いけど、冷たいシャワーは嫌い?

 寒いのが苦手なのかな?

 けど、唯一の鍋であるフライパンでお湯を……って言っても、ほんの少ししか沸かせないから、我慢してもらうしかないかな。


「うーん。じゃあ、シャワーの間、お兄さんがニナを抱き締めてくれるなら……」

「却下!」

「ニナはリディアに言ってないよ? お兄さんにお願いしたの」

「ダメーっ!」

「……あ! 違うよ? 変な意味じゃ無いの。ドワーフは、本当に寒いのがダメなの」


 何故か俺ではなくリディアが否定したけど、ニナの言う変な意味とは何だろうか。

 俺が思う変な意味だとすると、リディアならマズいが、ニナは見た目が子供だから、特に問題ないように思うのだが。


「んー、ニナは本当に寒いのが苦手らしいし、リディアが抱き締めてあげるっていうのは?」

「うん。お兄さんの方が良かったけど、この際リディアでも良い」

「えぇっ!? ……うぅ、でもアレックスさんに全裸で抱きつかれるよりかは……で、では、私で」


 渋々と言った感じでシャワーを浴びる事が決まったので、俺とリディアが服を脱ぎ始めると、


「ふーん。エルフの女性って華奢なのに、出るところは、ちゃんと出てるんだ」

「ちょ、ちょっとニナさん!?」

「あ、凄い。柔らかい」

「ニナさん!? ど、どこを触っているんですかっ!」


 俺の背後からリディアの悲鳴が聞こえてくる。

 だが、流石にこれは助けられないので、リディアに頑張って貰うしかないな。


「お兄さんがすぐ後ろに居る所で全裸になるって、ドキドキするね」

「大丈夫よ。アレックスさんは覗いたりしないから」

「うん。それはニナも分かる。けど、少しくらい覗いても良いのに……ってリディアは思ってそう」

「に、ニナさんっ!?」


 いや、覗かないから!

 そんな事でリディアに嫌われたら、本気でこの地で生活出来なくなるからな。

 ……まぁ初日は大変な事になってしまったんだけどさ。


「えーっと、そろそろ良いか?」

「あ、はい。大丈夫です」

「なるほど。お互い見なくても、自然に手を繋いで……このままリディアは後ろ向きで行くんだ」


 ……ん? リディアはいつも通りみたいだけど、ニナは何をしているんだ? リディアみたいに後ろ向きじゃないのか?

 ふと気配を感じて、少しだけ顔を右に向けると、


「あーっ! お兄さんがニナの裸を見た!」

「いや、見たというか、視界には入ったけど、そもそも、どうしてそんな所に居るんだよっ!」

「だって、ニナは後ろ向きとか言われなかったもん」

「というか、俺の身体をまじまじと見るのも止めろーっ!」


 ニナがすぐ側に居て、普通にこっちを見ていた。

 リディアとは、もう何も言わなくても阿吽の呼吸で行動出来ていたけど、ニナへちゃんと説明しないといけないなと反省しつつ、壁の隅――石で作った洗い場へ。

 リディアが精霊魔法で俺たちの上からシャワーのように水を出すと、


「つ、冷たい……リディア助けてっ」

「ま、待って! ニナさんっ! どこを触って……」

「さ、寒いよーっ!」

「く、くすぐったい……ちょ、ちょっと、ニナさん! ストップ! これ以上は魔法の制御が……」


 背後から二人の言葉が聞こえてくる。

 その直後、バケツの水をひっくり返したかのような水の塊が上から落ちてきた。


「きゃあぁぁぁっ!」

「くっ……二人ともこっちへ……」

「ご、ごめんなさいっ! コントロールが……も、もう大丈夫ですっ!」


 流石にこんな事態は想定していなくて、防御スキルも使っていなかったので、二人を庇うようにして背中で水を受け止めると、少しして滝のような水がシャワーに戻る。


「二人とも大丈夫か?」

「ニナは大丈……夫じゃないよっ! もうお嫁に行けないよっ!」


 見れば俺の足下で、しゃがみ込んだニナとリディアが顔を上げていて……


「わ、私もですっ! アレックスさんが責任を取って、結婚して下さいっ!」

「いや、これは非常事態だったから! とりあえず二人共、一度下を向こう。暫く見上げるの禁止!」


 初日以来の大惨事に。

 ……一先ずニナが鉄を見つけたら、真っ先に風呂を作って貰う事にした。

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