第859話 青いズボンの怪盗レックス
「アレックスよ。どうするのじゃ!? もう王女まで入ってきてしまったのじゃ」
ミオが困惑しているが、それは俺も同じ。
早く行かなければ面倒な事になってしまう。
とはいえ、まだマリーナに抱きつかれたままだし、仮面はすぐに着けられるが、服を着るのはすぐには無理だ。
その一方で、
「……やっと僕の……」
ザガリーが小声で何か言ったのだろう。
デイジー王女がビクッと怯えた様子で後ずさり……自身の務めを思い出したかのように、恐る恐る手を伸ばす。
これは……やはり、デイジー王女はザガリーと政略結婚させられるのだろう。
貴族や王族は仕方がない部分があるのかもしれないが、相手が奴隷商人というのは可哀想の域を超えている!
「仕方がない。ミオ、マリーナ。行くぞっ!」
「むっ!? わ、わかったのじゃ」
「ふぇっ!? あと少しなのーっ!」
鎧の留め金を外すと、大きく後ろへ跳ぶ。
元々大き過ぎる鎧なので、それだけで鎧を脱ぐ事が出来た。
着地と共に、
「〜〜〜〜っ!? アレックス、今の凄……あ、えーいっ!」
マリーナが変な声を上げ、触手で自分自身と俺の下半身をグルグル巻きにする。
以前と同じマリーナの触手スカートの別バージョンのようだ。
ひとまず、これでマリーナの身体が晒される事はない。
更に、マリーナが触手を伸ばし……デイジー王女を持ち上げた!?
「アレックス! セリフなのじゃ!」
「セリフ!? いや、状況が予定と……」
「では、我の言う通りに叫ぶのじゃ」
背後から首に抱きつくミオに言われ、言われた通りのセリフを口にする。
「あ……こほん。メリナ商会の元締め、ザガリーよ! 奴隷商人であるお前に、デイジー王女の手を取らせる訳にはいかない!」
ミオの指示通りにセリフを言うと、来賓者が走り寄って来たので、殴り飛ばしておく。
こんな状況なので、力加減を誤ったのか、吹き飛んだ男がメリナ商会側の列席者を全員薙ぎ倒したが……まぁ死者は居なさそうだし、大丈夫だろう。
……ついでにザガリーも殴っておきたいのだが、少し距離がある。
あ、そうだ。脱いだ鎧の一部をザガリーに向けて投げ……無事命中した。
本来はデイジー王女が来る前にザガリーを殴り倒す予定だったのだが、仕方がない。
「アレックス。またセリフなのじゃ」
「我が名は怪盗レックス! デイジー王女はいただいた!」
……って、ミオに言われた通りに口にしたけど、王女を連れ去るのか!?
それは当初の予定に無いし、王族を連れ去るのはマズい気がするのだが。
「……レックス様。私を連れ出して……いえ、助けてくださるのですか?」
腕の中のデイジー王女が、嬉しそうに顔を輝かせて見つめてくる。
これは……助けるしかないだろ!
「あぁ! 少し走る。しっかり捕まっているんだぞ?」
「はいっ!」
デイジー王女を抱きかかえ、ミオがしっかり抱きついているのを確認し、マリーナは……まぁその、アレと触手でがっちりホールドされているので大丈夫だろう。
と言う訳で、正面の扉から外へ出ると、ミオが結界を張り、誰も出られないようにする。
だが、すぐに騎士団が集まってくるだろうし、全力でここから離れようとするのだが、
「んっ!」
「あふんっ!」
「〜〜〜〜っ!」
下の方から……触手で抱きついているマリーナから、必死に耐えるような声が聞こえてきた。
「レックス様? 何か変な音が……」
「俺たちをサポートしてくれている仲間だ。安全な場所まで離れたら紹介するよ。だからマリー……マリーも少し耐えてくれ」
「んん〜〜〜〜っ! と、跳ぶ度に、マリも飛んじゃうのー!」
よく分からないが、マリーナが辛そうなのはよく分かる。
しかし、何処まで逃げれば良いのだろうか。
俺も仮面を被り、マリーナもマリーと呼んでいる状態なのに、昨日世話になったレイチェルの家に行く訳にはいかないだろう。
困惑しながからも、王城から離れていくと、
「アレ……レックスよ。向こうなのじゃ! 急いで向こうへ行くのじゃ!」
突然ミオが全然違う方角を指差した。
「ミ……ミオン。何かあったのか?」
「うむ。急いで向かわぬと、街が滅ぶ可能性があるのじゃ」
「一体何なんだ?」
「オティー……とにかく、急ぐのじゃ!」
オティーリエの偽名を考えるのが面倒だったのか、それともデイジー王女に聞かせられないのか。
詳細は教えてくれなかったが、ミオの指し示す方向へ向かう事にした。
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