第860話 誤魔化すアレックスとミオ
「あ……レッ、クス。……ひぅっ!」
ミオにオティーリエの所へ急げと言われて走っているのだが、青いズボンに擬態して抱きついているマリーナが不用意に口を開き、デイジー王女が不思議そうに小首を傾げる。
「あの、レックス様。今、すぐ側から女の子の声が聞こえたような……」
お姫様抱っこでかかえているデイジー王女が、下を覗こうとし始めた。
マズい。
マリーナは結衣のように影の中へ身体を隠したり出来る訳ではないので、不自然にズボンが膨らんでいるように見える……というか、いくらマリーナが小柄とはいえ、不自然過ぎる。
式場では、マリーナの肌が露出しない事を目的としていたので、気にしていなかったが、デイジー王女が見れば異様な状態を質問されるのは免れない。
誤魔化すのも大変だし……そもそも下を見れないように、デイジー王女身体を支える左腕を少し伸ばして頬に触れると、無理矢理俺に顔を向けさせる。
「デイジー王女。周囲の事は気にせず、俺だけを見ていてください」
「……はい」
よし。デイジー王女が下を向こうとしなくなった。
それ自体は成功と言えるのだが、俺を見つめる目線が熱いというか、見つめすぎというか……いや、俺が自分でそうしろと言ったんだけどさ。
そんな事を考えながら、街の中を流れる川に差しかかり……橋へ迂回する程の幅ではないな。
「デイジー王女。しっかり掴まっていてください。跳びます」
「は、はい。大丈夫です」
一切減速せずに跳び、無事に対岸へ着地すると、
「~~~~っ! しゅ、しゅごーい!」
またマリーナが声を上げる。
「やっぱり女の子の声……」
「わ、我なのじゃ。その、レックスの足の速さが凄ーいのじゃ」
「失礼しました。ミオン様のお声だったのですね」
ミオのおかげで何とか誤魔化せたようだと安堵していたのだが、再びデイジー王女が口を開く。
「あの、ミオン様。もう一つお聞きしても?」
「な、何なのじゃ?」
「何度か、行く行くと呟かれておりますが、どちらへ行かれるのでしょうか?」
「…………む、向こうなのじゃ」
「向こう? 確かザガリー様のお屋敷が……」
「そ、そんな事より見えたのじゃ! レックスよ! オティなのじゃ!」
ミオがオティーリエだと言うが、残念ながら俺には見えない。
つまり、ドラゴンの姿にはなっていないという事……なのだが、おかしいな。
今、大きな屋敷を囲う、かなり頑丈そうな塀が一気に崩れた。
オティーリエの……竜人族の攻撃であれば、確かにそれくらいは容易だと思うのだが、それにしては崩れた範囲が広い。
まるでドラゴンの尻尾か体当たりでも受けたような壊れ方なのだが。
「レックス! 避けるのじゃ! オティの体内で氷の魔力が高まっておる。ブレスが来るのじゃ!」
「避けるって、どっちへ!?」
「むっ……み、右なのじゃっ! 早くっ!」
ミオの言葉に従い右へ大きく跳ぶと、一部分にだけ吹雪が吹き荒れ、先程まで俺が居た場所にも冷気が降り注ぐ。
しかし、ブレスが現れた位置が、俺の身長の倍くらいの高さからだ。
オティーリエがブレスを吐いたにしては、随分高い場所からなのだが……まさか!
「ミオン! もしかして……オティーリエはドラゴンの姿も奪われたのか!?」
「おそらく。今は魔力の輪郭からして、ドラゴンの姿なのじゃ。そして、戦っている相手が……姿を隠しておるが、太陰なのじゃ」
俺には全く見えないが、ミオと旧知の仲であり、オティーリエの姿を奪った太陰が戦っているのか。
ひとまず、ミオ、マリーナ、デイジー王女にパラディンの防御スキルを使い、ダメージを肩代わり出来るようにしたのだが、何も見えない俺には、マリーナとデイジー王女を何処へ匿えば良いのかも分からない。
「ミオンから太陰に戦いを止めるように……オティの姿を戻る様に話せないか?」
「やってみるのじゃ。太陰……太陰よ。我じゃ。ミオン……いや、ミオなのじゃ」
ミオが大きな声で呼びかけるが……何か変化があるようには思えない。
それどころか、戦いの余波だと思うが、屋敷の一部が崩れ落ちた。
「うぅむ……我の声が届かぬとは。太陰よ……何をしておるのじゃ」
姿が見えないブラックドラゴンの戦い……どうすれば良いんだ?
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