第861話 やっと着替えるアレックス

 轟音と共に、またもや建物崩れ落ちる。

 ひとまず、今崩れた辺りにオティーリエたちがいると思われるので、離れた方が良さそうだ。


「……って、この屋敷の中に人は残って居ないだろうか」

「厳密には分からぬが、建物内から魔力を感じないのじゃ。既に全員逃げているのではないか?」

「だと良いのだが……デイジー王女。この屋敷に人が住んでいるかどうか知っているだろうか? 実は元から無人の屋敷……とかだと、安堵出来るのだが」


 デイジー王女に目を向けると、暫く俺の目を見つめ……えっと、俺の話を聞いていたのだろうか?


「デイジー王女?」

「ひゃ、ひゃい! せ、接吻は結婚してからでないとダメだと……」

「ん? いや、この屋敷について何か知らないかと思って」

「あっ! えっと、ここはザガリー様のお屋敷です。中に入った事はないので、内部についてはわかりませんが」


 ザガリーの屋敷か。

 メリナ商会に、姿のない者が居たし、オティーリエはメリナ商会に姿を奪われたと言っていた。

 それに、姿を消す……ミオ曰く、隠す力を持つと言う太陰がここに居るという事を考えると、ミオの声が届かなくなった秘密が、この屋敷にあるかもしれない。


「少し建物内を調べるか」

「うむ。そうするのじゃ。我も太陰を元に戻してやりたいのじゃ」


 出来る事ならば、デイジー王女を何処かへ隠し、ミオに守ってもらえると良いのだが、今回は仕方がないだろう。

 ミオも太陰の事を調べたいと言い、全員で屋敷の中へ。

 幸い、ミオが言っていた通り誰も居ないようなので、いい加減マリーナに離れてもらい、普通の服を着ようと思う。


「デイジー王女。少しだけ目を瞑っていていただけませんか?」

「は、はいっ! わ、私レックス様に嫁ぐのですね?」

「え? どういう事ですか?」

「め、目を閉じるという事は、せ、

接吻を……つまり夫婦になるという事ですよね? ど、どうぞ。レックス様……」


 デイジー王女が目を閉じたので、床に立たせてミオに見ていてもらい、その間に適当な小部屋へ。


「マリーナ。触手を解除してくれ。……マリーナ?」

「……」

「大丈夫か!? マリーナ!」


 呼び掛けても反応が無いので、触手の束の中に手を突っ込み、マリーナの身体を持ち上げると、


「~~~~っ!」


 ビクビクと身体を痙攣させ、動かない。

 マズい! もしかして、ずっと触手ズボンの中に居たし、酸欠状態なのか!?


「マリーナ!」

「~~~~~~っ! んむっ! んぅ……っ!」

「良かった。息を吹き返したか」

「アレックス……す、凄かった。えっと、綺麗にするー」

「いや、いいから。そんな状況ではないんだ」

「やだー。マリーが欲しいのー!」


 デイジー王女を待たせているので、俺から離れないマリーナの服を整え、俺も急いで服を着る。

 マリーナは何とか落ち着いたものの、戻った先のデイジー王女が未だに目を閉じていて、もう開けて良いと言ったのだが……何故か目を開けてくれない。


「……で、デイジー王女?」

「……」

「レックスよ。お主という奴は……仕方がない。そこにしゃがむのじゃ」


 目を開けず、ちょっと不機嫌そうなデイジー王女の前で、ミオにしゃがめと言われて従う。

 王女の顔と俺の顔がすぐ近くで……そうか。俺が目線を合わせて話していないから、デイジーが怒っているのだと、ミオは言いたいんだな。


「デイジー王女……」

「はい。私はいつでも大丈夫です」

「あ、そういう事? はい、お裾分け」


 改めて、目を開けて欲しいとお願いしようとしたら、突然マリーナが触手をデイジー王女の口に突っ込み……何かを飲ませた!?


「マリーナ!? 何を!?」

「……お裾分けしただけだよー! アレックスのを欲しそうな顔をしてたから」


 何を言っているんだ? と思っていたら、突然デイジー王女が目を見開く。


「え、えへへ。レックス様にデイジーの初めてをもらっていただきました……これで私はレックス様の妻ですね」

「いやあの……デイジー王女!?」

「どうぞ末永くお側に居させてくださいませ」


 そう言って、デイジー王女が深々と頭を下げるが、王族が簡単に頭を下げて良いのだろうか。


「我は軽く頬に……と思っていたのじゃ。うむ……もう知らんのじゃ」


 何故かミオに呆れられ、デイジー王女とマリーナに抱きつかれ……って、それよりオティーリエと太陰を何とかしに来たんだよっ!

 ようやく本来の目的を思い出し、屋敷の中を探索する事にした。

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