第858話 鎧の中の攻防
「む……どうして、我らはこんな場所に居るのだ? 会場の警備に当たっていたはず……」
「確かに……あっ! た、隊長! それよりも、もう時間がありません! 来賓の方々が会場へ来る時間では!?」
「な、何だと!? み、皆の者、急いでデイジー様の結婚式会場へ行くぞ! 配置はその場で指示する! 急げっ!」
フョークラの薬のおかげだろうか。
俺たちが戦っていた事は忘れられ、何事も無かったかのように式場へ案内される。
……それは良いのだが、ミオとマリーナがぐったりしているのがマズい。
こんな狭い鎧の中で動くから、暑さにやられてしまったのだろう。
「……違うのじゃ。アレックスのが凄すぎるからなのじゃ……っ!」
ミオが俺の心でも読んでいるかのように呟くが、もう移動している訳だし、そろそろ止めてくれないだろうか。
「ミオー。そろそろマリの番だよー」
いや二人共、そろそろ状況を考えてくれないか?
俺から二人に話し掛ける事が出来ないというのに、止める気配が全く無いのだが。
「おい、そこの! 歩いていないで走れ! 時間が無いのだ!」
「~~~~っ! うぐぅっ! おほぉっ!」
「ん? 今、何か言ったか?」
他の騎士に言われて走ると、鎧の中でミオが大きな声を……本当に勘弁してくれ。
バレるかもしれないので声を出さずに、ジェスチャーで喋っていない事を示して、式場へ。
「ミオー。マリの番だからー。ビクンビクンしてないで、交代してよー」
「ま、待つのじゃ。は、激し過ぎて動けぬのじゃ……」
「ミオばっかりズルいー!」
頼む。頼むから静かにしてくれ。
「お前はそこの隅にいろ。身体がデカいから目立ってしまうからな」
「……んっ! アレックスぅー」
「今、変な声が聞こえたような……気のせいか?」
鎧の中でミオとマリーナが交代して……いや、マリーナ? もう時間なんだってば。
「お時間です! これより王族の方々と、ザガリー卿の関係者が入られます。騎士団の方々は、ネズミ一匹入り込まないように警備をお願い致します」
進行役のような人が大きな声でそう言うと、音楽隊が演奏を始め、大きな扉から豪華なドレスの女性が入ってきた。
先頭で新婦側に着席する辺り、王族……王妃といったところだろうか。
王子らしき人物や、何かしらの高い役職に就いていそうな年配の男性とか、貴族っぽい人とか……服装が凄い人達が着席していく。
続いて新郎側にも男性たちが着席していくのだが、少し柄が悪いというか、新婦側に座る人たちとは明らかに雰囲気の違う者たちが入ってくる。
こいつらもメリナ商会の人間……つまりは奴隷売買に関連している者たちだろうか。
新郎側の奴らを全員纏めて殴ってやりたいが、今は我慢だ。
大元であるザガリーという奴を倒さなくては。
「マリーナよ。そろそろ終わらぬとマズいのじゃ」
「えー? さっきまでミオがずっとアレックスを独占してたのにー」
「いや、それは申し訳ないのじゃが……外から聞こえる声によると、もう決行の時間なのじゃ」
「うーん……もう少し。もう少しだけー」
マリーナ!? いや、そんな事をしている場合ではないんだって。
あと、音が漏れているのか、隣に立っている女性騎士がチラチラ見てくるんだよ。
この大きな鎧のままでは動き難いし、元より鎧を脱ぐという話になっていたのだが、今のままでは鎧が脱げないんだが。
「それでは、新郎ザガリー様のご入場です」
司会者の声で、楽団の奏でる音楽が変わり、大柄な男が入ってきた!
こいつか! 打ち合わせ通り、デイジー王女が現れる前にこいつを……って、マリーナ!? その動きを止めてくれっ!
「マリーナ。終わりなのじゃ。行くのじゃ!」
「やだぁ! もう少しだからぁ! あとちょっとー!」
流石に、この状態で鎧を脱いで、仮面を着けて姿を現したら……ただの変態じゃないか!
どうする? マリーナを早く満足させる為に……いや、既に隣の女性騎士から怪しまれている気がするし、そんな不審な動きは出来ない。
とはいえ、このまま姿を現せば、俺が変態扱いされるのはまだしも、マリーナの身体を大勢に晒すのは避けたい。
どうすべきか考えていると、
「それでは、新婦デイジー王女様のご入場です」
王女が会場へ入って来てしまった。
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