第25話 農作業に励む俺とリディア……の様子を見たエリー

「アレックス。午後はまた洞窟の探索に行くの? 私、頑張るよ?」

「いや、地上の開拓と、作物の世話もしないといけないからな。今日の午後はそれで手一杯になると思う」

「そっか。いろいろと大変なんだね」


 昼食を終え、後片付けを済ませた所でエリーが声を掛けてきてくれたが、地下洞窟へ行かない旨を伝えると、少し寂しそうにされてしまった。

 改めて考えてみると、俺とリディアは作物に水やりをするとして、エリーとニナは何をしてもらおうか。

 昨日のニナは、暇だからと言って俺とリディアの作業についてきて……おんぶしただけで、本当に何もしなかったな。

 とはいえ、エリーとニナの二人だけで地下洞窟というのは、万が一の場合が怖い。

 エリーの魔法は強力だが、紙防御なので、素早いアサシン・ラビットなどに遭遇すると危険な気がする。

 一先ず、ニナは午後に何をするのか聞いてみようか。


「ニナ。ちょっと良いか?」

「あ、お兄さん。丁度良い所に。ニナも、お兄さんにお話があるのー」

「そうなのか? じゃあ、先にニナから言ってくれ」

「あ、あのね。えっと、ここだとちょっと、言いづらい……かな」

「そうなのか? じゃあ、小屋の外で聞こう。それなら構わないか?」


 ニナが小さく頷いたので、リディアとエリーに待っていてもらい、そのまま外へ。

 すると、何やら改まったニナが、


「あ、あの……ニナ、お兄さんにお願いがあるの」

「ん、どうしたんだ?」

「実は……って、あれ?」


 何か言いかけた所で、俺の後ろを見つめだす。

 何だろうかと思い、俺も後ろを見てみると、


「あ、あははは……し、失礼しましたー!」

「ご、ごめんねー!」


 リディアとエリーが僅かに扉を開け、こっちを見て居た。


「まったく。他の人に聞かれたくない相談事だってあるのにな」

「う、うん。でも、二人にも関係あると言えばあるんだけど、エリーさんの事で……」


 改めてニナの話を聞くと、エリーに使って欲しい魔法があるという話だった。


「なんだ、そんな事か。それくらいならエリーに直接言えば良いのに。きっと快諾してくれるさ」

「けど、魔法を使うって事は、お兄さんが魔力を分けないといけないんじゃないのー?」

「それは、リディアの場合だよ。リディアの使う精霊魔法は魔力の消耗が激しいらしいけど、エリーの魔法はそこまで激しくないから、数回なら余裕だよ」


 とはいえ、アークウィザードの魔力消費も少ない訳ではないし、俺のように魔力回復力向上のスキルがある訳ではないから、乱発は出来ないが。

 一先ず、ニナと一緒に小屋へ戻り、何故かそわそわしているエリーに声を掛ける。


「エリー。ニナからお願いがあるって」

「えっ、私!? まさか……アレックスの事を諦めろとか……」

「ん? 何か言ったか?」

「な、何でもないわよっ! それで、ニナちゃんのお願いって?」


 エリーに促されたニナが、少し言い難そうに、小声で話し始める。


「あのね、エリーに魔法を使って欲しいの」

「魔法? 構わないわよ。どんな魔法なの?」

「えっとね……その、炎の魔法を使って欲しいの。土で作った器を焼いて欲しくて」

「良いけど、私の魔法だと持続しないけど大丈夫?」

「うん……というのも、高温が必要だから。普通は窯で焼くんだけどね」


 なるほど。普通は窯を使って高温にするが、ここに窯は無い。

 だから、リディアの精霊魔法よりも高火力なエリーの魔法を使いたいって事か。


「あ……もしかして、ニナさんは私に気を遣ってくださったんですか?」

「う、うん。ごめんね。火はリディア担当なのかなって思って」

「そんなの別に気にしないのに。それに私は、火の魔法は得意じゃないですし」


 一先ずニナとエリーが土の器を焼く事になったので、俺とリディアはいつも通り作物の世話をする事にした。


「≪恵の水≫」

「じゃあ、次の畑へ移ろうか」

「はい。ではアレックスさん、お願いします」


 そう言って、俺の背中に居るリディアが身体を押し付けてくる。

 魔力を分けてはいるものの、やはり精霊魔法の使用には負担が掛かっているのかもしれない。

 申し訳なく思いながらも、キャベツ畑から始まり、リディアをおんぶして順番に作物へ水を撒いていると、エリーとニナがやって来た。


「アレックス。こっちは終わったから、何かお手伝いする事は……」

「エリー、ありがとう。こっちは大丈夫だ……って、エリー? どうしたんだ?」

「……なのに……」


 しかし、笑顔で駆けてきたエリーが、俺たちの姿を見た所で、突然足を止める。

 一体どうしたのかと思って見ていると、


「そのおんぶは、私とアレックスの思い出なのにーっ!」

「エリーっ!? おい、エリーっ! どうしたんだ突然っ!」

「えっ!? ど、どうしたの!? お兄さん、エリー……泣いてなかった!?」


 何故かエリーが、突然走り去ってしまった。

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