第26話 魔法を乱発しながら逃げるエリーと、追いかける俺たち

「エリーっ! ……ニナ、すまん。追いかけてくる」

「あ、お兄さん! ニナを置いてかないでよーっ!」


 意外に足が速いニナと共にエリーを追いかけ……何故か追いつけない。

 いつの間にエリーは、あんなに足が速くなったんだ!?


「エリーっ! 待ってくれっ!」

「あの、アレックスさん。エリーさんを追い掛けられるのなら、私を降ろした方が良いのでは?」

「あっ! またかっ!」


 もう何度目となるのか。

 軽過ぎるリディアをおんぶしていた事を失念して、そのまま走ってしまっていたので、慌てて降ろし、改めてエリーを追い掛けていくと、ニナのトンネルの中へと入って行ってしまった。


「エリー。一旦話を……え!? エリーっ!?」

「アレックスさん、これはマズくないですか!?」

「お兄さん、どうしたの……あ。嘘っ!」


 トンネルの最奥部まで行くと、リディアの作った壁が壊されていた。

 つまり、エリーは一人で地下洞窟の中へと入って行った事になる。中は真っ暗だし、魔物だって現れるというのに。


「二人とも、すまない。エリーを追いかけるのに、協力してくれ」

「もちろんです。行きましょう」

「うんっ! 早く追いかけないと大変な事になっちゃう」


 盾を取りに戻る時間は無い為、いつも腰に差している剣の鞘に照明を灯し、松明代わりにすると、


「リディア、いつものように少しだけ隙間を開けて、出入り口を塞いでおいてくれ。あと、ニナは悪いが出入り口へ戻って来れるように、所々で光る苔を生やして欲しい」

「畏まりました」

「うん、わかったー!」


 広い洞窟の中で、右か左か正面か……どちらへ向かうべきかと考える。

 エリーはがむしゃらに走っていたので、正面な気がするのだが、


「……≪ファイアーストーム≫……」


 エリーの声が遠くに聞こえ、暗闇の中が照らされる。

 ただ、エリーの魔法によって照らされた場所が、思ったよりも遠い!


「真っすぐだ! ついて来てくれっ!」


 リディアとニナを連れ、先ほど一瞬見えた灯りの方向に進んで行く。

 魔物が現れるため、パラディンの上位防御スキルも使用して、急ぎつつも慎重に進んで行くと、


「……≪ファイアーストーム≫……」


 二度目の炎が見えた。

 かなり洞窟の奥の方まで入ってしまっているが、先ほどよりは近くに見えているので、少しずつ近付けているようだ。


「エリーっ! ……くっ、こっちの声は届いていないのか?」

「エリーさーんっ! 止まってくださーいっ!」

「エリー、一人での行動は危ないよーっ!」


 三人で呼びかけてみるが、何の反応も無い。

 再び、エリーを目指して進んでいくと、何度か炎が見えたのだが、魔物が多いのか、魔法を使う間隔がどんどん短くなっている。


「……って、ちょっと待った。ニナ、土の器を焼く時に、エリーは何回魔法を使った?」

「え? えーっと、沢山あったし、最初は加減も分からなかったから……六回くらいかな?」


 マズいな。

 魔力供給無しでは、エリーは十五回程度しか魔法が使えなかった。

 俺の魔力供給を必要としなくなってから暫く経っているので、体内の魔力が増えていたとしても、洞窟へ入ってから、既に十回程魔法を使っている。

 今、エリーが自身の状況がちゃんと把握できていなければ、あと数回で魔力枯渇を起こしてしまう。

 この洞窟は魔物が多いというのに、一人しか居ない状態で魔力枯渇を起こして気絶してしまったら、どうなるかは考えるまでも無い。


「≪サンダーボルト≫っ!」


 そんな事を考えているそばから、再びエリーの魔法を放つ声が聞こえてきた。


「エリーっ! 俺だっ! 戻ってきてくれっ!」

「アレックス!? ……来ちゃダメ……」


 思っていたよりも、すぐ近くでエリーの声が聞こえたのだが、その声は随分と弱々しく聞こえる。

 急いで声の元へ向かうと、うずくまるエリーと、


「あ、アレックスさん……」

「何故だ!? どうして、こんな場所にこんな奴が!?」


 俺の倍の背丈がありそうな、大型のゴーレムが三体。

 ゴーレムは、魔法人形とも呼ばれ、サソリやウサギとは異なり、当然野生で生息する訳では無い。

 つまりゴーレムは、何らかの目的の為、誰かによって人為的に作られた訳なのだが……それよりも今は、


「ゴーレム! お前たちの相手は俺だっ! ≪ディボーション≫」


 うずくまるエリーに防御スキルを使用しつつ、庇うように前へ出る。


「リディア、エリーを頼む!」

「はいっ! エリーさん、立てますか!?」

「ごめんなさい。魔力が……」


 魔力枯渇か……俺がエリーに触れられれば回復させられるのだが、いくら動きの遅いゴーレムといえども、一人で三体同時に相手をするのはキツい。

 せめて盾があれば、まだ何とか出来そうなのだが。

 剣と鞘で何とかゴーレムの攻撃を凌いでいると、


「≪大地の槍≫っ!」


 リディアが生み出した槍がゴーレムを……効いてないっ!?

 いや、だが一体のバランスを崩した。

 そこへ、


「とぉーっ! ≪採掘≫! ……お兄さん、今のうちにっ!」


 どうやらゴーレムは鉄か何かで出来ていたらしく、ニナが別の一体の足を破壊して、転倒させる。

 その隙に、


「≪シェア・マジック≫」


 エリーの魔力を回復させる事に成功した。


「エリー、大丈夫か?」

「うん……ごめんね」

「それより、エリー。今はこいつらを倒すぞ」

「うんっ! ≪サンダーストーム≫っ!」


 エリーから発せられた光の渦がゴーレムたちを包み込み、動きが鈍くなった所で、ニナが採掘スキルを使って身体を削っていく。

 そして、


「お兄さん! ゴーレムの核が見えたよっ! これはニナじゃ無理。お願いっ!」

「任せろっ! ≪ホーリー・クロス≫!」


 皆で力を合わせ、謎のゴーレムを倒す事が出来た。

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