第394話 万能なカスミのピンチ
「皆、準備はいい? じゃあ出発するわねー」
本当は、子供たちをエリラドへ送ったのと同じように、女性を分身たちに任せるつもりだったのだが、諸事情で諦めた。
今は俺の結界スキルで馬車に乗った女性陣が、俺や分身に向かってこれないようにしている。
カスミのように分身を自在に操れるのなら、このまま送っても良いのだが、トイレ休憩などで結界スキルを解除した後、分身では結界を張れないんだよな。
そんな事を考えながらも、馬車は走って行くのだが、
「お兄さん……」
「あぁ、分かっている。つけられているな」
俺たちの馬車を付かず離れずでついて来る馬車がいる。
その上、こちらを監視するかのような視線を感じるし、こちらが止まったら、向こうも止まるので、たまたま道が同じという訳ではないだろう。
「ちょっと行ってくるよ」
「え? お兄さんが行かなくても、カスミちゃんが行ってくるわよー?」
「いや、念の為な。相手が何か罠を仕掛けている可能性もあるだろ? スピードは確実にカスミの方が上だけど、防御と体力は俺の方があるからな」
「いやー、王様を守るのがカスミちゃんたちシノビのお仕事なんだけど。それに、カスミちゃんなら分身を送って消すだけだから、馬車も止めなくで良いしねー」
そう言われると、その通りだが……仕方ないか。
俺が行くと、馬車を止めて待って貰わなくてはならなくなるし、カスミみたいに特定の分身だけを消したり出来ないからな。
「なら、すまないが、頼む」
「任せてー」
そう言うと、カスミの分身が現れ、そのまま馬車から飛び降りる。
……念の為、パラディンの防御スキルでダメージを肩代わり出来る様にした後、カスミの分身が後方へ走って行った。
「ふふん。さぁて、カスミちゃんのあとをつけたりするおバカさんは、どこの誰かしらー?」
カスミが御者台で鼻歌混じりに笑みを浮かべているが、俺は後方へ移動して分身の様子を伺う。
最悪の場合、いつでも飛び出せるようにしながら、目を凝らし……突然、分身の動きが止まる。
何だ? 様子が変だぞ?
「お父さん。カスミさんの様子がおかしいんだけど……」
エリスに呼ばれて御者台へ行くと、手綱を離して立ち上がったカスミが、何処からともなく短剣を取り出し……投げてきた!?
「くっ!」
いつも身につけている、ニナお手製の携帯用の小型盾でナイフを防ぐと、目の前にカスミが居て、思いっきり腹を蹴り上げられる。
「お父さんっ!」
「気にするな。大したダメージではない……が、なるほど。カスミの分身が何か状態異常を受けたか。パラディンである俺の近くに居れば、状態異常も防げるんだけどな」
カスミの本体は俺のすぐ傍に居るのだが、分身がかなり離れているからか、操作か混乱か……何かは分からないが、状態異常攻撃を受けてしまったようだ。
しかもカスミが手綱を手放して居るからか、四頭の馬は馬車を引いたまま走り続ける。
「≪リフレッシュ≫……中位の神聖魔法ではダメか」
「……」
無言のまま、目に光の無いカスミが再び俺に向かって飛び掛かってきて……
「≪閉鎖≫」
何とか結界スキルの中へ閉じ込める事に成功した。
だが、
「お、お父さんっ! こ、この馬車……どんどん速度が上がってない!?」
御者台が無人の馬車は、更に加速していく。
どうやら、かなり良い馬を選んでくれたようだが……そのせいで、カスミの分身に何かしたであろう、後ろの馬車が既に見えなくなってしまった。
俺の神聖魔法ではカスミを治せない。
状態異常攻撃を仕掛けて来た者を倒せばカスミが正気に戻る可能性はあるが、それも遥か後方。
視点を分身に切り替えると、子供たちの方に居るカスミの分身は……幸い暴走せずに、今は糸の切れた操り人形のように動かない。
だが、いつ向こうが暴走して、子供たちを危険な目に遭わせるかわからないから、とにかく早く治療しなければ。
「この中で神聖魔法や治癒系統のスキルを使える者は居ないか?」
六人の女性たちに尋ねてみたが、全員首を横に振る。
ど、どうすれば良いんだっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます