第393話 分身たちだけの行動

「では、行こうか」

「……すごーい! おにーさんと、おねーさんがふえたー!」

「皆、カスミ……こっちのお姉さんについて行ってくれ」


 複製スキルは解除したので、五体の分身が現れたのだが、その内の三体を子供たちと行動を共にさせる。

 と言っても、俺はまだ自分の意志で上手く分身を操作出来ないので、自動行動スキルに頼っているが。

 ……もちろん、一切変な事はしないようにしているし、あくまで防御スキルを使用する護衛のつもりだ。

 メインは、複数の分身をそれぞれバラバラに操れるカスミの分身にお願いしているが。


「では、行くわよー!」


 カスミの分身が先頭を行き、その後ろを子供たち十人が。最後尾を俺の分身が歩いて行く。

 ちなみに分身の自動行動は、複雑な指示が出来ないので、子供たちがカスミから離れたら元の隊列に戻す事と、子供たちに脅威となる者から守る事を指示している。


「……どうやら大丈夫みたいだな」


 暫く分身たちと子供たちの様子を見守り、無事に乗合馬車へ乗ったので、もう大丈夫だろう。

 だが、これはカスミの分身が居てくれるから出来るが、流石に俺の分身だけでは無理だな。


「さて、次は女性たちだが……カスミ。ウラヤンカダの村には、どうやって行くんだ?」

「んー、カスミちゃんとお兄さんだけなら、走って行けば良いんだけど、流石にこの女性たちは無理な距離ねー。正式に地図へ載っている村でもないから乗合馬車も通らないし、馬車を借りるしかないかしら」

「となると、御者に村の存在が知られてしまうか」

「あ、馬車なら私が操作出来るから大丈夫よー。馬車だけ何処かで調達出来れば良いわ」


 凄いな。相変わらずカスミは何でも出来る。

 だが、馬車か。

 魔族領ではシーサーに頑張ってもらっているが、いずれウラヤンカダの村で作った作物を街へ売りに行く事を考えたら、買っておくのも手だな。


「よし、資金はあるから馬車を一つ買おう」

「了解。そういう事なら、信頼できるお店の情報を得ているから、案内するわー」

「頼む。皆は暫くここで待っていてくれ」


 石の小屋に、俺の分身二体とエリス、六人の女性たちを残し、カスミと共に街へ。

 案内してもらった店で、馬車を見せて貰っていると……下半身に違和感が。

 何だ? まさか……あぁぁ、しまったぁぁぁっ!

 嫌な予感がして視点を切り替えると、石の壁に残してきた分身が女性たちに服を脱がされ……咥えるなぁぁぁっ!


「お兄さん。どうしたのー?」

「旦那、息が荒くなっているようですが……もしかして、馬車に興奮するタイプですか? いやー、長年この商売をしていますが、同志に会えたのは初めてですね。良いでしょう、このフォルム! ドラゴンがアレをぶっ込んでくるんじゃないかってくらいに、魅力的なんですよっ!」


 店主の男性が意味不明な事を早口で捲し立ててきたが、早く戻って止めないと!

 今は分身を子供たちの護衛にしているから、大変な事になってしまうっ!


「分かった! それを……それをもらおう!」

「ありがとうございますっ! いやー、馬車の美しさを理解していただけるお客さんに買って貰えて、本当に嬉しいですよ!」

「あー、お兄さん。とりあえず手続きが終わったら、カスミちゃんが馬車の中で飲んであげるよー? でないと大変な事になっちゃうでしょー?」


 カスミが俺の状況に気付いたようだが、普段ならそれも一つの手だが、今はダメなんだっ!

 俺が出してしまったら、分身全員が同時に出すからな。

 今は絶対に出してはいけないんだぁぁぁっ!


「旦那。次は馬車を引く馬ですが、この馬車なら、最低二頭は必要ですね」

「ま、任せる。この馬車に最適な馬を見繕ってくれ」

「おぉ、流石ですっ! 馬車の美しさが最上で、馬は二の次……えぇ、私がこの馬車にピッタリの馬を選んで参りますので、少しお待ち下さい!」


 店主が嬉しそうに頷き、奥へ消えていったが……耐えろ! 耐えるんだっ!


「お待たせしました。美しい馬車ですので、それを引く馬も美しく……白い雌馬をご用意しました。雌馬でパワーが劣る為、四頭にしておりますが、宜しいでしょうか?」

「構わない。それより早く清算を頼む」

「おぉ、早く馬車に乗りたくて仕方ないといった感じですな。お待ち下さい。全速力で手続きを済ませますので」


 店主と従業員たちが、馬に器具を付けたり、馬車の点検をしたり……とりあえず全ての手続きが終わって馬車ごと店を出た。

 だが、


「やっぱりお兄さんのは濃厚ねー。出来れば、こっちに欲しかったけどねー」


 結局暴発は止められず、カスミに綺麗にしてもらう事に。

 子供たちの方は……か、カスミの分身がどう説明したのかはわからないが、誤魔化してくれていた。

 ありがとう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る