第832話 高速馬車

 ドワーフの女性たちを満足させたところで、分身を解除して意識を本体に戻すと……目の前にモニカがいた。

 というか、互いの顔が目と鼻の先にあった。


「ん……モニカ?」

「ふぇっ!? あ、アレックス殿!? ……こ、こほん。……で、もう終わったという事で良いのだな?」

「すまない、モニカ。そう……だな」


 どうやらモニカは大変な事になっている馬車の中には居らず、周囲の警戒にあたっていてくれたようだ。


「母上。父上にキスしようとして躊躇うのは今更かと」

「なっ!? な、何を言う。私はそんなはしたない事を、しようとしていない」

「本来の母上でしたら、父上の意識が分身へ移っているのを良い事に、襲う……いえ、それどころか、聖水を飲ませる勢いでしたのに」

「せ、聖水を……そんなものアレックス殿に飲ませる訳がないだろう!」

「日々、直飲みさせようとしたり、聖水を作る所を見せていましたが」


 いやあの、モニーが言っている事は事実なんだが、モニカが真っ赤になっているので、それくらいにしておこうか。

 しかし、羞恥心のあるモニカは懐かしいというか、逆に新鮮だな。


「アレックス。すまない、待たせたな」


 モニカとモニーと話しているうちにブレアが戻ってきたので、早速出発する事に。

 だが、この街へ来た時と同様に、ブレアが俺の隣に並んで馬車を引こうとし始めたので、今回は中に入ってもらう事にした。


「クッ……アレックスよ。隣に並ばせてくれないのか?」

「いや、そういう訳ではなく、せっかくこの街まで来たのに船まで戻る事になっただろ? だから、少し急ぎたいんだ。少し本気を出すから、馬車の中でブレアも……というか全員しっかり捕まっていて欲しい」

「むっ! これはマズいのじゃ。結界で馬車から転落しないようにするが、全力で何かにしがみつくのじゃ! 特にドワーフの少女たちよ。知らぬだろうが、この馬車は想像の数倍速いのじゃ」


 ブレアが馬車に乗ると、ミオが落下防止の結界を張ってくれた。

 極力揺れないように、急ぎつつも平らな場所を通るつもりだが、小さな窪みがあっただけでも、かなり跳ねそうだからな。


「じゃあ、出発するぞ。皆、ミオの言った通り、しっかりつかまっていてくれ」

「えっ!? アレックス様が馬車を? これだけ大きな馬車ですし、アレックス様にもこちらへ来ていただいて、皆で……っ!?」

「わぁ、速ーい!」


 出発すると、ドワーフの女性が突然無言になってしまったが、その一方でマリーナは楽しそうに笑っている。

 チラッと様子を見てみると……なるほど。触手で天井にぶら下がっているから、何処にもぶつかる心配がないのか。


「アレックスー! もっと速くても大丈夫だよー」

「ふぁっ!? マリーナちゃん!? 何を言って……」

「ケェーッ! 流石はアレック〜〜〜〜っ!」


 マリーナがもっと速く……と言った直後にグレイスの悲鳴が聞こえたので、速度はこれくらいにしておこう。

 あと、ブレアが舌を噛んだみたいだが……大丈夫か?

 この状態で、大声で喋るからだと思うのだが、後で治癒魔法を使おうか。

 それから、途中で皆を休憩させ、ドワーフたちから涙目で訴えられかけたので、速度を少し落として……海へ着いた。


「つ、着いた……馬車、怖い」

「ふっ! 皆はまだまだなのじゃ。以前は馬車がなく、代わりにアレックスが皆をおんぶして走っておったのじゃ……って、あの時の方が気持ち良かったのじゃ」

「あの、その話を詳しく聞かせていただけると……」


 ミオが少し前の移動方法について説明し、ドワーフの女性たちや、フョークラが羨ましそうな表情を浮かべ、チラチラ俺を見てくる。

 いや、しないからな?

 馬車がある訳だし、あれは腰への負担が大きいし。

 そんな視線をスルーして北側に目を向ける。


「皆、見てくれ。あの船だ」

「あの、小型で帆のない船は……確かにドワーフの船です!」

「アレックス様! ありがとうございます!」


 ドワーフの女性たちを連れて船の甲板に乗り込むと、


「アレックス様ーっ! 約束のアレで早く私たちを……あ、あれ? えっと……攫われた被害者さんたち?」


 何故かドワーフの兵士たちが下着姿で現れた。

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