第831話 正義の心
「クケッ! アレックス。随分と遅かったな……って、そちらの女性兵士は?」
「は……ははは。ちょっと門で色々あったんだ」
「クックック。階級は……見習いの衛生兵? どうして見習い兵がアレックスと一緒に来たんだ? それに、随分と距離が近いようだが」
門での一件で女性兵士が解放してくれないのと、ミオたちも分身といろんな事をしているせいもあって……まぁその、結果的に満足させる事になってしまった。
それから、ブレアの所へ行かないといけないと話したのだが、せめてそこまでは一緒に居たいと言われ……ブレアに首を傾げられる事に。
いや、俺もこれは想定外だったんだ。
「父上に魅力があり過ぎるが故の結果ですね」
「モニーちゃん。私の事をママって呼んでもいいよー?」
「いえ。そういう考え方にすると、母上と呼ばなければならなくなる女性が無数に居ますので」
モニーと女性兵士の話を聞いていたブレアが、訳が分からない……といった表情を浮かべるが、俺もどうしてこうなったのかと言いたい。
ミオたちを魔物から守る為に分身を出したはずなんだけどな。
……今も、結衣に頑張ってもらわなければならない事になっているし。
「クケケッ! よく分からないが、証拠となる取引記録は発見した。あとは、これを元に人身売買をした買い手を投獄するだけだ!」
「おぉ、流石だな」
俺が手伝うまでもなく、ブレアが探していた資料を見つけていたので褒めていると、突然女性兵士が畏まる。
「あっ、あなたは……十字架のブレア様では!?」
「ケェッ! いかにも」
「まさかアレックス様のパートナーがブレア様だったなんて! 本当に残念ですが、確かに私では力不足のようです。ですが、微力ながら、私はこの街で騎士団を……そして国を改善すべく尽力していきたいと思います」
「ケェェェッ! イイッ! イイぞっ! 正義の力に燃える若き兵士よっ! では、これは君に託そうではないか」
そう言って、ミオが帳簿のようなものを女性兵士に渡す。
「ま、待って下さい! この騎士団や国を良くしたいという気持ちは本当ですが、まだ私は見習い兵でしかなく……」
「クックック。騎士であろうと兵士であろうと、最初は誰でも見習いや新人だ。我々だってそうだ。今でこそ、騎士として悪に立ち向かっているが、最初から出来た訳ではない。だが、好機を逃してはならぬ!」
「は、はい……」
「今が、この国から……少なくとも、この街から腐敗した悪を排除する絶好の機会! だが、我らはこの国に巣食う更なる悪を叩くため、旅立たねばならぬ。そのため、君の中にある正義の心に託したいのだ。我らの想いを!」
「ブレア様……ありがたきお言葉です!」
「そして、勿論根回しはしておこう。この街で私が懇意にしている、正義の騎士に事情を話して紹介する。君の正義の心で、この資料に記載されている外道どもを捕らえてくれ」
「畏まりました! 私はブレア様の想いを継ぎ、この街から悪を一掃致します!」
女性兵士とブレアが物凄く盛り上がっているので、暫く様子を見ていると……二人でブレアの知り合いの騎士の許へ行くという話になった。
ひとまず俺とモニーは街の外の馬車で待っている事を伝え、先に戻ったのだが……周囲に魔物の気配はなく、代わりに馬車の中が大惨事になっている。
「父上。中では楽しそうな事になっておりますし、ここは私たちも……」
「モニーにそんな事をする訳ないだろ」
「……私は結衣殿と殆ど見た目に差はないのですが。おそらく、一歳か二歳程度の差しかないのに」
モニーが口を尖らせてくるが、それはさておき、中にいるミオに声を掛ける。
「ミオ。魔物がいないなら、分身を消そうと思うのだが」
「……! …………!」
「あれ? ……ミオ? おーい、ミオー!」
どうやらミオが結界で音を遮断しているようで、中の声が聞こえず、俺の声も聞こえないようだ。
更に魔物だけでなく俺も中に入れない。
……一方的に今すぐ分身を消しても良いのだが、かえって後で面倒な事になってしまう気がする。
仕方がなく、分身の一体に意識を切り替え……ミオに声を掛ける。
「ミオ。魔物はいないようだし、分身を消すぞ」
「~~~~っ! ……ふぅ。我は構わぬのじゃ。お主らも、そろそろ良いか?」
「ま、待ってください! 私たちは、まだ三巡目に入ったばかりで……もう少しで私の番なんですぅぅぅっ!」
って、俺が切り替えた分身の目の前に、助けたはずのドワーフの女性が三人並んでいる。
責任は取るが……いや、救助対象者のはずなんだけどな。
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