第830話 タイミング
「では、ドワーフの国へ戻る船まで案内するから、ついて来てくれ」
「クケッ! アレックスよ。少しだけ待って欲しい。探し物があるのだ」
メリナ商会から助けた五人のドワーフの女性たちを連れて馬車へ戻ろうとしたのだが、ブレアから待ったが掛かる。
メリナ商会の机や棚などを調べているが、何を探しているのだろうか。
「ブレア。何を探しているのか教えてくれれば、俺も手伝うぞ?」
「クックック。では、この商会の取引の記録を探して欲しいのだ。幸い、売られる前の十人は助ける事が出来たが、既に売られてしまっているドワーフの女性たちがいるはず。取引記録を証拠に、騎士団に調査させ、取引相手の投獄とドワーフ女性を救助したい」
「なるほど。確かに! では、この五人の女性を馬車に連れて行き、戻ってこよう」
流石は騎士団というべきか、俺にブレアの発想はなかったな。
人身売買というからには、売った側は当然だが、買った者も処罰しなければ。
メリナ商会の本部を潰した暁には、何とかして全員を助け出したいのだが、モニカを元に戻す為にハヤアキツヒメを探す必要もある。
……何とかして、どちらも両立出来るような方法を考えないとな。
「では、街の外に俺たちの仲間が待っているから、一旦そこまで行こうか」
モニーを背負った俺が先頭を歩き、フョークラが最後尾を歩いて、ドワーフの女性たちを守りながら街の外へ。
念の為、パラディンの防御スキルも使用していたが、特に何事も無く馬車へ。
「おぉ、アレックスよ。やっと戻ってきたのじゃ。そろそろ分身せぬのか?」
「分身というと、何かこの馬車に危機があったのか? 少し用事があって、俺だけ街に戻ろうと思うんだが、魔物などが現れるなら、分身を置いていくぞ?」
「いや、魔物という訳では……こほん。いや、その通りなのじゃ。何とか我の結界で守れてはおるが、アレックスの分身を置いていってくれた方が、我らも安心するのじゃ。出来れば、十体程」
「十体は幾らなんでも多くないか? 十体だと、自動行動になってしまうし、自動行動で分身に戦闘をさせた事がないから、少し危険な気がするのだが」
「いざという時は、我の結界でアレックスの分身を止めるのじゃ。何の心配もないから、分身を出すのじゃ」
ミオがそこまで言うのなら……と、分身を十体出し、先ずは五人のドワーフの女性たちをミオに預ける。
「この街のメリナ商会にいたドワーフの女性たちだ。俺が戻ったら一旦海まで戻り、ドワーフの兵士に預けようと思う」
「わかったのじゃ。では、ここは我らに任せて用事を済ませてくるのじゃ」
「すまないが、頼むよ」
フョークラは馬車に戻り、モニーは俺の背中にくっついたままで、再び街へ戻る。
ブレアの所へ戻るため、モニーと共に門を通ろうとしたところで、
「なっ!? これは……」
アレに違和感が生じた。
ミオ……魔物が現れたのではなかったのか!?
この感触は、どう考えても舌なのだが……くっ!
「あの、どうされたのですか? 貴方は……先程、ブレアさんと一緒にメリナ商会と戦われていた方ですよね!? あの大人数が相手ですし、どこか怪我を!?」
「い、いや、違うんだ。これは……」
「無理なさらないでください! メリナ商会の大捕り物の対応で、今は衛生兵見習いの私しかおりませんが、消毒くらいは出来ます。こちらへ!」
俺が苦しんでいると勘違いした、女性兵士が俺を強引に詰所へ連れて行こうとする。
本気で抵抗すればもちろん振り払えるのだが、肩を支える為に密着されてしまっているので、これを振り払うとなると、怪我をさせてしまう可能性が高く、振り払えない!
「頑張ってください! 私……実は貴方の行動に感動していたんです。私は騎士になりたくて兵士になったのですが、ここの兵士たちは皆腐っていて、賄賂は平然と受け取るし、悪人も見て見ぬふり。そんな中、貴方たちの行動は素晴らしくて……」
女性が俺を励まそうと、いろいろと話し掛けてくれているのだが、違うんだ!
俺はどこも怪我をしていないし、苦しくもない。
いや、ある意味では苦しいというか、我慢しているのだが……とりあえず、この女性が離れたら、すぐに逃げよう。
そう思ったのだが、
「うぐっ! だ、ダメだ……」
「えぇっ!? あと少しでベッドに……し、仕方ありません。怪我をされているのは、お腹……ですね? 失礼、患部を見せて……えぇっ!?」
「あぁっ!」
ミオやフョークラに、グレイスとマリーナ、それからノーラと……おそらく十人のドワーフ女性たちから攻められ、物凄くタイミングの悪い時に女性が俺のズボンを降ろしてしまった。
そして……
「父上。私も、こちらの女性みたいに、父上のをいただきたいです」
どうしてこうなった。
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