第106話 地上の魔物

「ニナたちが頑張ってくれたおかげで、この更地から脱出する事が出来た。そして、ユーディットによると、東には村があるらしい。だが、どんな村か分からないし、先ずは戦闘職で様子を見に行きたいと思う」


 昼食後、俺の提案に大半の者が頷いてくれた。


「お兄さん。皆で行っちゃダメなの?」

「そうだよー。ボクもお兄ちゃんと一緒に行きたいよー」

「いや、戦闘職だけで行くのは、ちゃんと理由があるんだ」


 唇を尖らせるニナとノーラに、全員で行けない理由を説明する。

 第一に、洞窟の先は更地ではないため、シャドウ・ウルフ以外の魔物が出現する可能性があり、石の壁が有効ではない事。

 第二に、それなりに距離もあるし、大勢で移動すのは得策でない事。

 第三に、村の住人が友好的か分からない事。最悪、いきなり攻撃される可能性だってある。


「……という訳だ」

「むー。ニナはお兄さんと一緒が良かったのにー」

「すまないな。向こうの村や、道中が危険ではないと判明したら、一緒に行こうな」


 ニナたちに納得してもらい、洞窟から村を目指すメンバーが決定した。

 俺、エリー、モニカ、サクラの四人と、位置確認の為のユーディット。それから、連絡要員の為にサクラの人形サラが同行する事に。


「拙者の人形は十一歳ですが、その年齢よりも前に修行が始まっております。その為、足手纏いにはならないはずです」

「残る者は最悪の場合、あの洞窟を埋めて、皆で防衛を頼む。……いや、あくまで最悪の場合だから。大丈夫。絶対、全員無事に戻るから」


 あくまで可能性の話として、最悪の事態になった場合は、サラからメイリンに連絡して、守りを固めるように……という話をしたら、リディアやニナたちの残るメンバーから抱きつかれてしまった。

 俺には奥の手があるし、今回は神聖魔法が使えるユーディットも居るので、以前のように倒れて動けなくなったりする事はないと説明し、ようやく出発する事に。


「では行ってくる。一先ず、これまで通り各自の作業を頼む」


 そう言って休憩用の家を出ると、見送られながら、ニナが掘ってくれた洞窟へ。

 かなり長い下り坂を進んで行き……突き当りとなる、石の壁へ到着した。


「皆、準備は良いな? ここからは見知らぬ魔物が現れる可能性が高い。それぞれ、注意しながら進むように」


 そう言って、先ずはパラディンの防御スキルを全員に使用し、ダメージを俺が肩代わりする状態に。

 それからユーディットが、


「≪アジリティ・ブースト≫」


 神聖魔法で皆の敏捷性を一時的に上昇させる。

 話を聞いてみると、使用出来るのは俺と同じく中位の神聖魔法までで高位の魔法は使えないらしい。

 だが俺とは違って、一部のバフ――強化魔法が使えるそうだ。

 それぞれの準備が整った所で、


「では、行くぞ。≪石の壁≫」


 洞窟を塞いで居た壁を取り除き、皆で外へ。

 すぐに石の壁で洞窟を塞ぐと、事前に打ち合わせた通り、サクラを先頭に、俺、エリー、ユーディット、サラ、モニカの順で歩いて行く。

 サクラが前方を警戒しながら進み、サラが元の場所へ戻る為の印を残してくれている。

 ……といっても、シノビにしか分からない印らしく、俺たちには全く見えないが。


 一先ず、魔物と遭遇する事も無く、暫く進んで居ると、最初は上から見ていた通り、むき出しになった土しかなかったが、


「……草が生え始めたな」

「そうね。普通の事なんだけど、暫く魔族領に居たから、凄く違和感があるわね」


 足元に短い草が生え始める。

 そして、


「アレックス様、魔物です。あれは……ロックパイソンという蛇ですね」

「あの蛇なら大した強さじゃないわよ。洞窟で何度も倒しているし」


 地上でシャドウ・ウルフ以外の魔物と遭遇した。


「なるほど。魔族領の地下に現れる魔物と、この辺りに生息している魔物が同じという事は、やはり上から土を被せたんだな」

「そうかもしれないわね……とりあえず、倒すわよ。≪ミドル・フリーズ≫」


 遭遇した魔物をあっさりエリーが倒したかと思うと、現れるのが大した魔物ではないからか、サクラとエリーがどんどん殲滅していく。

 そのまま草原を進んでいると、周囲に木が生え始め、


「アレックス、見えたよ。あと少しで村だよ」


 位置の確認の為に飛んくれたユーディットが、すぐそこが村だと教えてくれた。

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