第555話 ラヴィニア母娘の再会

 先程の人魚族の男性が、浅い水路を泳いで行くと、少しして奥から五人程の人魚族が現れた。

 その中の一人、先頭に居る女性は、どことなくラヴィニアに似ているような気がする。


「アマンダ……なの?」

「その声は、お母さん!?」

「アマンダっ!? あぁっ! この声、この顔……幾ら年月が過ぎても間違わないわっ! アマンダーっ!」


 良かった。ラヴィニアが母親と再会し、互いに涙を流しながら抱き合っている。

 これで、故郷へ帰れたのはユーディットに続いて二人目だな。

 次はノーラを故郷へ帰してあげたいのだが、モニカとフェリーチェに同行しているノアの話によると、リス耳族の村はあったものの、ノーラの故郷では無かったらしいからな。

 今は別のリス耳族の村へ向かっていると言っていたが、玄武を助けたら何処かで合流しなければ。

 ……って、ラヴィニアの母親との再会で忘れかけていたが、玄武の事もちゃんと聞かないとな。


「お母さん。お父さんは?」

「今は、外の海へ漁に行っているわ。暫くしたら戻って来るわよ」

「そっか。じゃあ先に、お母さんに紹介しておくわね。私の旦那様のアレックスさんよ。私、結婚したの」

「えぇっ!? あ、アマンダ!? け、結婚ですって!?」

「うん! アレックスさんは、とっても素敵な人なの。お母さんも、きっと気に入ってくれると思うわ」


 玄武の話を聞きたかったのだが、この話の流れを止める事も出来ず、まずはラヴィニアのお母さんへ挨拶する事に。


「突然すみません。アレックスと申します。ラヴィ……アマンダさんを妻に迎えさせていただきたく、ご挨拶させてください」


 ラヴィニアのお母さんが水の中で、俺が水の上から話しかけるのもどうかと思ったが、ここは種族の違いという事で勘弁してもらおう。

 そう思っていたのだが、お母さんが物凄く困惑している。

 オロオロしながら俺とラヴィニアを交互に見るのだが……やはり、水の上からというのがマズかったのだろうか。

 よく考えたら、人魚族のマナーとか風習とかを知らないのはマズかったな。


「あ、あのね、アマンダ。アレックスさんは……どう見ても人間族よね?」

「そうだけど、大丈夫! 愛があるから! きっと子供だって出来るわ!」

「こ、子供……アマンダは、まだ成人したばかりの年齢でしょ? 流石に子供は早くないかしら?」

「そうかしら? でも、遅かれ早かれ、きっと出来るわよ。だって、アレックスさんは凄いんだもの」


 いや、実の母親に向かって何の話をしているんだよ!

 そう思ったのだが、俺よりも早くお母さんの後ろに居た人魚族の男性が反応する。


「あ、アマンダちゃん!? ま、待ってくれ! あの人間族が凄い……って、ま、まさか既に番となる行為をしたのか!?」

「もちろん! ……って、ごめんなさい。どなたでしたっけ?」

「なっ!? お、僕の事を忘れてしまったのか!? チニーロだよ! ほら、隣の家に住んでいただろ?」

「……あ! よく、私の服を盗んでいた変態の人!」

「そ……それは思い出さなくて良いよっ! というか、僕はアマンダちゃんの婚約者なんだから、それくらい良いじゃないかっ!」

「婚約者? ……お母さん。そんなの初耳なんだけど」


 自身の婚約者だと言われ、ラヴィニアが口を尖らせるが……何となく嫌な予感がする。

 というか、もうこの後のチニーロという人魚族の男の行動が予想出来てしまうな。


「おい! そこの人間族の男! 僕のアマンダちゃんに何て事をしてくれたんだ!」

「……すまない。婚約者が居るという事は知らなかったんだ」

「えぇ、そうね。私だって知らなかったもの。アレックスさんは悪く無いわ。それに、そもそもアレックスさんを好きになったのは、私からなんだから」


 ラヴィニアの言葉で母親が更にオロオロし始め、チニーロが大きく落ち込む。

 だがそれも一瞬の事で、チニーロが再び俺を睨み始めた。


「か、過去の事は水に流そう! だが、この僕こそがアマンダちゃんの婚約者なんだ! だから、すっぱり身を引いて……」

「嫌よ。私はアレックスさんの妻だもの」

「い、いやいや、アマンダちゃん。アイツは人間族で、僕は同じ人魚族だよ? 子作りの事を考えても、絶対に僕の方が良いって」

「無理です。私はもう既に、アレックスさん無しじゃ生きられない身体になっているんだから」


 ラヴィニアが追い打ちをかけ、チニーロが倒れそうになっているんだが。

 いや、意外にメンタルは強いようで、再び復活したな。


「……ふっ! それはどうかな。自分で言うのもなんだけど、僕のは人より遥かに……」

「そこの人魚族のおにーさん。無理無理。アレックス様のは、これだよー? 絶対に勝てないってばー」

「って、トゥーリア!? 何をしているんだよっ!


 気付けば、俺の足下に居たトゥーリアが、俺のズボンを膝まで下ろし……頬ずりするなっ!


「まぁ……アマンダ。アレックスさんの……凄いわね」

「でしょう? お母さん。アレックスさんのは、本気になったらもっと凄いのよ」

「くっ……う、うわぁぁぁぁぁん!」


 ラヴィニアと母親の会話を聞いて、チニーロが奥へと姿を消してしまった。

 まぁ母娘でする話ではないよな。

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