第556話 第一魔族領

 とりあえずトゥーリアとラヴィニアに変な行動を止めさせると、ラヴィニアの親との再会の次に重要な、玄武の話へ。


「すみません。実は教えて欲しい事がありまして」

「あ、はい。私は二百七十歳なので、人間族に換算すると、二十五歳くらいです。アマンダを産んでも、体型も崩れていないし、いつでもどうぞ」

「お母さん。もう三百歳を超えているし、人間族に換算すると三十歳くらいでしょ。サバを読み過ぎよ」


 ラヴィニアに指摘され、母親が笑みを浮かべながらも小さく舌打ち……って、何の話をしているんだよ。


「あの、年齢の話ではなくて、教えて欲しいのは玄武の事なんだが」

「玄武……って、あの魔王と戦った、神獣の玄武様の事!?」

「そう! その玄武の事を教えて欲しいんだ! というのも、俺たちは玄武の仲間、シェイリー……じゃなくて、青龍から玄武を助けて欲しいと言われて、この北の大陸へやって来たんだ」


 信じられないといった感じで、ラヴィニアの母親が驚いているが、神獣から仲間の神獣を助けて欲しいと言われている……などと言われても、俄かには信じられないだろう。

 だが、ラヴィニアが俺の話が真実だと言ってくれたおかげで、半信半疑といった様子ではあるものの、母親が口を開く。


「玄武様が魔王と戦った神獣だというのは知っていますね? お伽噺などではなく、それがただの事実だと言う事を」

「あぁ。青龍からも聞いている。それで、力を失ってしまったと」

「はい。魔王に敗れた玄武様は、自身の聖地とも言うべき社へお戻りになられました。しかし、風を司る強力な魔族が魔王から遣わされ、その玄武様の聖地を魔族の支配下――第一魔族領としたのです」


 第一魔族領!

 第四魔族領と呼ばれる地にシェイリーが封じられていたように、やはりそこに玄武が居るのか。


「第一魔族領の場所を知っているのか!?」

「はい。とても良く知っています。ここに居る人魚族は、ほぼ全員が」

「それは、何処なのだろうか。案内してくれとまでは言わないから、是非場所を教えて欲しいんだ!」

「……教える事は出来ますが、その場所を教えたら、アレックスさんはそこへ行ってしまうんですよね?」

「あぁ、そのつもりだが……あ!」


 ラヴィニアの母親が、何故か物凄く言いたくなさそうなのだが、少し考えてその理由がわかった。

 弱っているとはいえ、神獣である玄武を抑え込んで居る魔族のところへ乗り込み、俺は玄武を助け出そうと考えている。

 だが、久々に再開したラヴィニアの夫である俺が、そんなところへ行くのが不安なんだな。


「もしかしたら、俺が魔族と戦おうとしている事を不安に思っているのかもしれないが、安心してくれ。俺はパラディンのジョブを授かっていて、魔族の弱点である聖属性の攻撃が得意だ」

「ですが……」

「それに何より、第四魔族領で土の四天王という魔族を倒し、青龍を助け出したんだ。だから、次も俺は勝つ。絶対にだ」

「でも土の四天王って、四天王の中では最弱というのが定番ではありませんか?」

「え!? いや、それは何とも言えないが……」

「そして、その破れた四天王の代わりに、名も無き五番手が昇格して、メキメキ頭角を現す……きっと、そうなるに違いありませんっ!」


 えーっと、ラヴィニアの母親は何の話をしているのだろうか。

 あとラヴィニアも、実の母親に対して、何言ってんだこいつ……みたいな目を向けないように。

 一先ず、ラヴィニアと一緒に母親と話し、何とか第一魔族領の場所を教えてもらえる事になった。


「本当は教えたくないのですが、玄武様の社がある第一魔族領は、北の……」

「た、大変だっ! みんなっ! 海竜だっ! 海竜がまた攻めて来たぞっ! 男は武器を持って外へ! 女子供は奥へ隠れるんだっ!」

「えぇっ!? ど、どうしてこの場所がわかったの!?」


 あと少しで場所がわかる……というところで、俺たちが通って来た出入口から、若い人魚族の男が現れた。

 だが、とりあえず聞き捨てならない言葉が聞こえたな。


「待ってくれ。今、海竜って言ったのか?」

「あぁ……って、どうしてこんなところに人間族が? 誰の客かは知らないが、海の戦いで人間族は役に立たない。奥へ隠れていてくれ」

「いや、違うんだ。その海竜……おそらく、俺たちの仲間だ」

「はぁ!? どういう事だ!? ま、まさか、お前が海竜を手引きしたのか!? ……悪魔の手先めっ! お前から先に始末してやるっ!」


 海竜というのは、十中八九レヴィアの事だと思うのだが、きちんと説明する前に、人魚族の男が襲い掛かって来た。

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