第554話 人魚族の棲家
レヴィアに船を引いてもらい、ひたすら西へ。
基本的に、レヴィアは陸地に沿って進んでくれているので、殆ど問題ないようだが、時折ルクレツィアから指示が入る。
「レヴィアさーん! ここは小さな島が入り組んでいてー、海流が複雑なのー! 右側から大回りで迂回してー!」
海中のレヴィアから返事こそないものの、ちゃんと伝わっているようで、ルクレツィアの言う通りに進んでくれる。
「しかし、レヴィアさんは凄いねー! 私とルクレツィアだと、絶対にこんな短時間でここまで来れないよー?」
「そうだよねー! しかも、船を引いて……いやー、無理無理。……って、見えて来たかもー!」
ルクレツィア曰く、ここは来たの大陸の中心から北西にある、物凄く複雑に入り組んだ地形らしい。
その為、普通に泳いでいると到着する事は無く、海流に逆らって泳いだり、ある部分では水中に潜ったりして、狭い迷路のような場所を進まなければならないのだとか。
「……って、水の中に潜らないといけないのか?」
「うん。ウチも、お母さんに連れて来てもらって、何回かは来た事があるんだけどー、必ず水中に入るよー」
「なるほど。という事は、船を何処かに置いておくのと、ユーリは行けないか」
「あー、そうだねー。泳ぎが得意じゃないと行けない……って、アレックス様は大丈夫ー? 海獺族やラヴィニアさん並に泳げないと厳しいよー?」
「いや、俺は水中で呼吸出来るスキルがあるから大丈夫だ。それより、プルムはどうだ?」
ユーリは完全に船へ居残りとなるが、プルムは……ダメか。
ユーリとプルムだけで留守番か。
ミオが居れば安心なんだが、この辺りにどんな者が居るかわからないから、二人だけだとちょっと不安だな。
そんな事を考えているうちに、問題の水中通路へ。
見た目は、周囲を高い崖に囲まれた行き止まりなのだが、実は水中から奥へ進む事が出来るらしい。
「アレックス。行き止まりなんだけど」
「あー、それなんだが、実は……」
人の姿に戻り、船へ上がって来たレヴィアに、先程ルクレツィアから聞いた話を伝え、一緒に俺の考えも伝える。
「レヴィア。すまないがここで船とユーリたちを守ってくれないだろうか」
「……仕方がない。これはレヴィアたん、アレックスに貸し。そして今晩返してもらう」
「ほ、程々に頼む。腰も全快ではないからな」
レヴィアはほんの少し前に、海獺族の女性たちに混ざっていたはずなのだが……レヴィアが居れば、余程の事が無い限り大丈夫なはずなので、任せる事に。
ちなみに、トゥーリアが貼ってくれた海獺族のハーブ入りの湿布は良く効いており、普通に歩ける程にはなった。
とはいえ、あまり無理はしたくないのが本音だが。
……今晩こそは、逢瀬スキルでイネスにマッサージをしてもらわなければ。
「じゃあウチが先頭を泳ぐからー、トゥーリアとラヴィニアさんが、アレックス様をサポートしてねー!」
「おっけー!」
「えぇ、わかったわ」
水中を泳ぐという事で、鎧や盾を船に置き、剣だけ……え? 剣も置いていった方が良い?
まぁ人魚族の棲家へ行くのに、武器を持って行かない方が良いか。
完全に丸腰だが、戦いに来た訳ではなく、玄武の事を知らないか聞きに来ただけだからな。
「では、行って来る。すまないが、少し待っていてくれ」
「船や皆の事は任せてー! レヴィアたんがしっかり守る」
「あぁ、頼むよ。じゃあ」
そう言って、水の中へ。
ルクレツィアを先頭に、トゥーリアとラヴィニアに身体を引いてもらって、水中深くへ進んで行くと、人が数人通れる程の横穴があった。
その中へ入ると、光る海草なのか珊瑚なのかはわからないが、ほんのり照らされた薄暗い通路を進んで行き、暫くして浮上する。
水中から出ると、かなり広い地下洞窟のような場所に出た。
「何者だ! ……って、ルクレツィアさん!? 後ろの方は……海獺族と、人間族!? どうやって人間族があの水の中を……って、そっちの人魚族は誰ですか? 見た事無い顔ですが」
「私は、ラヴィニア……いえ、アマンダと言います。昔、東の洞窟から引っ越す際に、その……攫われてしまったんですけど」
「え!? 引っ越しの時に、アマンダって……た、大変だっ! ちょ、ちょっと待っていてくれっ!」
水から出てすぐのところに居た、見張りらしき人魚族の男性が、大慌てで奥へと向かって行った。
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