第444話 お昼寝アレックス

「シェイリー。玄武はどこに居るんだ?」

「それは我も知りたいが……あやつは北を守護する神獣。そちらへ向かえば、何か情報が得られるかもしれぬ」


 北か。そういえば、この第四魔族領の東と南には到達したが、北と西はどうなっているのだろうか。


「んー、とりあえず、北に向かってみるか」

「いや、確かに北へ向かえと言ったが、アレックスが思っているよりも、遥かに遠い場所だ。おそらく、別の大陸であろう」

「別の大陸!? ……あ! そういえば、夢の中で船を手に入れろと言われたような気もする」

「……アレックスよ。かなり具体的に助言を貰っているようだが、忘れているだけで実は他にもあるのではないか? 国名だとか、目印になるものだとか」

「い、いや、これ以上はなかった気がする。……たぶん」

「ふむ……その夢はどういった時に見たのだ? 普通に寝ている時に見たのか?」


 あの夢を見たのは確か……そうだ。エリラドの街で保護した幼い女の子たちが作った料理を食べて……いつの間にか眠っていたんだ。

 ……あ、あれは流石に進んで食べたくはないかな。


「た、確か昼寝をしている時に見たんだったと思う」

「なるほど。ではアレックスよ。今から、我と一緒に寝ようではないか。再び、その夢が見られるかもしれぬ」

「えっ!? ここで……か?」

「何か問題でもあるのか?」

「いや……まぁいいか」


 ステラやモニカが気絶している横で、俺も寝転ぶと、シェイリーが隣にやってきて、腕枕を要求してくる。

 それくらいなら構わないかと思ったら、


「アレックス様! フィーネはさっきの続きをしたいです!」

「そうそう。寝るんだったら分身を出してよー。いつも、そうしてたでしょー」

「むっ!? いつも寝る時に分身としながらだと!? なんと羨ましい……我にもするのだ!」


 いや、玄武の手掛かりを得る為に昼寝するんじゃなかったのかよ。

 とはいえ、フィーネとテレーゼは、一晩中しながら寝ているのは本当の事なので、分身を出して……って、シェイリー。寝るんだよな? 俺のすぐ隣で変な声を出さないで欲しいんだが。

 いや、しているのも俺の分身だし、俺に感覚もあるんだけどさ。

 夜は眠気でフィーネたちの声が気にならないが、今は眠くないから……いや、とりあえず眠ってみよう。


 結局、眠っていたような気もするが、玄武の手掛かりになるような夢は見られず……目を開けると、ジト目のエリーに見下ろされていた。


「エリーっ!? メイリンもっ!? というか、ユーディットにボルシチも……どうしてここへ?」

「レイさんから、アレックスが来ているって教えてもらったんだけど……随分と気持ち良さそうに眠っていたわね」

「い、いや、これには事情があってだな」


 エリーが深い溜息を吐いたところで、


「旦那様。カスミが妾たちの子供経由で、ユイ殿の事を教えてくださったのですが……紹介していただけますか?」

「旦那様ー! 私もしたいなー。ダメー?」

「おにーさん。そろそろ、乳搾りしてくれないと、困るわぁー」


 真剣な様子のメイリンと、拗ねるユーディットに、胸を寄せて上げるボルシチに囲まれ……とりあえず一つずつ解決していこう。

 先ずはユイを……って、俺の上にノーラが。


「ノーラ……ちょっどだけ降りてくれないか?」

「ヤダー! だって、今までボクだけ子作りしてもらえてなかったもん! もっともっとー!」

「と、とりあえずユイを……メイリン。あそこにいる黒髪の女の子が……って、ユイーっ! いきなり五人同時とかはやりすぎだっ」


 分身が鬼畜モードのままだったらしく、小さなユイに容赦なく……とりあえず分身を解除し、改めてユイを呼ぶ。


「ご主人様。結衣、いろんな事を学んだよー!」

「ちょ、ちょーっと学び過ぎだな。まぁユイの話し方が成長したのは良い事だが」

「結衣!? 結衣と申したのか!? 黒髪で、結衣という名前……なるほど」


 ユイ――結衣の名前を聞いたメイリンが何やら考えだし、少しして顔を上げる。


「メイリン。どうしたんだ?」

「いえ。結衣というのは、大昔の黒髪の一族に流行っていた名前だという書物を読んだ事があるのです。結衣……何か思い出せる事はありませんか?」

「あのね、ご主人様のって、凄いの! 結衣、ご主人様の子供を生むのっ!」


 結衣の言葉で、エリーだけでなくメイリンからもジト目を向けられ、俺は苦笑いしか出来なかった。

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