第707話 ブラックドラゴンの棲家
西大陸の湖に戻ると、ヴァレーリエが何かを感じとったのか、一瞬怒気が放たれ……すぐに収まる。
「さぁ、アレックス! アイツを倒しに行くんよ!」
そう言って、ヴァレーリエが俺の腕に抱きつき、歩き出す。
良かった。森の中で発火したら、大変な事になるからな。
「向こうね」
「えぇ、その通りですの」
ヴァレーリエもシアーシャも、共にブラックドラゴンの魔力を感知する事が出来るようで、一直線に同じ方向へ向かって歩き出す。
特にヴァレーリエは文字通りの一直線で、目の前に木があろうとも、岩があろうとも、全て殴り壊して真っすぐに歩いていく。
……まぁ変に怒りを貯め込んで周囲を発火させるよりかは良いのではないだろうか。
左腕をヴァレーリエに引っ張られ、背中に抱きついているユーリを右手で支えながら歩いているのだが……かなりハイペースだな。
俺や走るのが好きなディアナは問題ないが、グレイスとシアーシャが少し辛そうだ。
「ヴァレーリエ。気持ちは分かるが、一旦休憩しよう」
「へ? ……あー、わかったんよ。これからアイツと戦う訳だし、ウチも気を落ち着かせてるんよ」
休憩という言葉を聞いて、ヴァレーリエが一瞬目を丸くするが、後ろに居る者たちの息が上がっている事に気付き、足を止めてくれた。
リディアやサマンサが、出発前に水や食料を用意してくれていたので、グレイスに空間収納から取りだしてもらい、喉を潤すと……再び歩き出す。
「あれ? 今更だけど、上り坂になっていないか?」
「はい。森の中で、木々が生い茂っているので分かりにくかったのですが、この先の山を目指しています」
「レヴィアみたいな海竜は別として、たいていのドラゴンは山に棲んでいるんよ」
シアーシャとヴァレーリエに説明され、山登りだと判明したのだが……ルートがおかしくないか?
これは……ヴァレーリエが冗談抜きに直線距離で行こうとしているな。
「ヴァレーリエ。このルートだと、ブラックドラゴンと戦う前に疲れてしまうぞ?」
「大丈夫なんよ。ちゃんとウチに考えがあるんよ。この森さえ抜ければ、ウチがドラゴンの姿になって、皆を運べば良いんよ」
「……それはそうかもしれないが、物凄く目立つぞ?」
「問題ないんよ。ここまで近付けば、もう向こうもウチの位置がわかっていると思うんよ。だから、目立ったところで、関係無いんよ」
そういうものなのか。
ヴァレーリエ曰く、レヴィアと一緒に来ていたら、ここへ到達するまでに向こうから先制攻撃を受けていたのだとか。
ドラゴン同士の戦いはよく分からないなと思いつつ、ヴァレーリエが期待していた通りに森を抜けた。
視界を覆っていた木々がなくなると、視界に大きな山が映る。
ただ、つい先ほどまでは森の中に居たというのに、目の前の山は灰色で、草木があまり生えていなさそうな岩山なのは何故だろうか。
そんな疑問を抱いたところで、ヴァレーリエが俺から離れる。
「ウチはここでドラゴンに変身するんよ。二人か三人くらいなら乗っても問題ないけど、どうする?」
「それはつまり、何人かはここで待機という事か? あまり離れると、パラディンの防御スキルの効果が維持出来なくなるんだが」
「それなら、ブラックドラゴンと直接対決しない者は、私が連れて行くよ」
ヴァレーリエと話をしていると、ザシャも飛行魔法を使ってくれると言う。
ひとまず、ヴァレーリエと行動を共にする者……つまり、ブラックドラゴンと直接対決するメンバーを決めなければならないか。
「とりあえず、俺はヴァレーリエの背に乗ろう。万が一落下しても、ムササビ耳族のキアラに貰ったマントで滑空出来るから大丈夫だ」
「パパー! ユーリもおそらをとべるよー!」
「そうだな……ユーリは俺と一緒に居ようか」
「わーい!」
これで残りはあと一人だが、必ずしも必要かというとそうではない。
というか、空を飛べる者が後はザシャしか居ないが、ザシャは他のメンバーを任せる事になるし、必然的に同行は無理だな。
「魔法戦なら私の出番……と言いたいところなのですが、ヴァレーリエさんの背中の上ですと、思いっきり日光を浴びてしまいますの」
「シアーシャは無理せず、ザシャと一緒に居てくれ」
「申し訳ないですの」
シアーシャがザシャ側へ行ったので、やはり俺とユーリだけだと思ったのだが、
「はーい! 誰も行かないなら、ウチもにーにと一緒がいいー!」
突然ディアナが抱きついてきた。
「いや、遊びに行く訳ではないんだ」
「でも、そのブラックドラゴンが虎耳族の村を襲ったから、虎耳族がウチの村を襲ったっていう可能性もあるでしょ? だから、ウチもブラックドラゴンと戦うの!」
「……わかった。とりあえず、ディアナは絶対に俺から離れないようにしてくれ」
「了解っ!」
ユーリとディアナが俺に抱きつき……まぁ小柄な二人だし、自分で俺にしがみ付いてくれているので、これなら剣も振るえると思う。
……たぶん。
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