第708話 VSブラックドラゴン
グレイスが空間収納魔法から地面の上に船を出すと、ザシャを除いた飛行魔法組が乗り込んだ。
「じゃあ、次はウチの番ね。アレックスはウチが変身したら、すぐに背中へ乗ってね」
「わかった」
俺にしがみ付くユーリとディアナも頷いたところで、ヴァレーリエの姿が大きく変わり……赤い竜、レッドドラゴンの姿になった。
そのままヴァレーリエの背中によじ登ると、
「じゃあ、行くんよ! しっかり捕まっているんよ!」
ヴァレーリエが羽ばたき、その身体が空へ舞う。
以前にシェイリーに乗せて飛んでもらった事を思い出しつつ、上昇していると、その目標である山頂の少し下、岩場に動く影を見つけた。
「ヴァレーリエ! 今、山の中腹で何かが動いた!」
「えっ!?」
「にーに! あそこっ! 黒い髪の男がいるっ!」
ディアナが指し示す場所に目をやると、三十歳くらいに見える黒髪の男がこっちを見ている。
頭に獣耳がないので、獣人ではないようだ。
そう思った直後、男が右手を上げた。
「ヴァレーリエ! 何か仕掛けて……っ!」
俺がヴァレーリエに向けて警告を言い終え得る前に、身体に強い衝撃が走る。
何だ!? 何をされたんだ!?
ヴァレーリエの背中の上で膝をつくと、ディアナが俺から降りて心配そうに顔を覗き込んでくる。
「にーに? どうしたの!? にーに!?」
「あのひとから、すごくつよいまりょくがきて、パパがスキルでダメージをかたがわりしたのー」
「ダメージを肩代わり!? この大きなレッドドラゴンさんの!? 身体が大きい分ダメージも大きいんじゃないの!?」
ディアナが心配そうにする傍らで、ユーリも俺から離れると、
「パパをいやすの。おちないように、だきとめてほしいのー」
「わかった。にーにを助けて!」
「うん! ≪ミドル・ヒール≫」
ディアナに抱きしめてもらい、ユーリが治癒魔法を使ってくれる。
少しはましになって来たが、中級の治癒魔法では回復しない程のダメージを受けているようだ。
「……あそこねっ!? ――っ! アイツは……ブラックドラゴン! 人の姿になっているけど、竜人族の黒竜種なんよっ!」
その一方で、黒竜族の男を見つけたヴァレーリエが山に向かって突っ込んで行く。
待て! 冷静になるんだ!
そう伝えたいのだが、先程のダメージが大きく、声が出ない。
やはりレッドドラゴンを壊滅させたブラックドラゴンは……強い!
「――はっ!」
ヴァレーリエが岩山に向かって巨大な炎の弾を吐く。
だが、直径が人の身長ほどありそうな炎の弾を、男が片手で払い除けた。
「くっ……このぉぉぉっ!」
炎が効かないからか、ヴァレーリエが男に向かって突っ込んで行く。
この急加速により、何度も使ってくれていたユーリの治癒魔法が途切れてしまう。
「パパとママの仇! 死ねぇぇぇっ!」
ヴァレーリエが岩山に突っ込み、その衝撃が俺の腕に来る。
「――っ!」
「ぱ、パパ! ダメージをかたがわりするスキルをかいじょしてー!」
「だ、大丈夫だ」
「でも……」
ユーリに心配されながら、俺も自分自身に治癒魔法をかけていく。
正直言って、パラディンの俺は、竜人族のヴァレーリエよりも体力と防御力が勝っていると自負している。
その俺で、この状態なのだ。
ダメージを肩代わりするパラディンのスキル、ディボーションを解除してしまったら、ヴァレーリエが大変な事になってしまう。
何とかして意識を失わないようにと耐えていると、突然視界が影に覆われる。
嫌な予感がして、何とか顔を上げると、ヴァレーリエの上――山よりも高い位置にブラックドラゴンの姿があった。
マズい! ヴァレーリエは岩山にぶつかって、身動きが取れずにいる。
今攻撃されたら、耐えきれるのか!?
「うるさいハエだ……消えろ」
ブラックドラゴンが俺たちを見下ろしながら、お返しと言わんばかりに口から黒い炎の弾を吐く。
しめたっ! 炎ならば、俺はダメージを受けないはずだ!
「ユーリ、ディアナ! ヴァレーリエにしっかり捕まっているんだぞ!」
「えっ!? パパ!? パパは!?」
「俺なら大丈夫だ! ユーリの治癒魔法のおかげでな!」
「えぇっ!? まだ、かんちしてないとおもう……」
心配そうに見つめるユーリの頭を撫でると、気合で起き上がり、ヴァレーリエの尻尾の上へ。
「ヴァレーリエ! そのまま尻尾を上に振り上げてくれ!」
「尻尾を? ウチ、今どういう状況か見えてないんよ! 尻尾を振り上げれば良いんやね!?」
「あぁ、頼む!」
「行くんよ!」
ヴァレーリエの尻尾に跳ね上げられ、俺よりも大きな黒い炎の弾に向かって飛んで行った。
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