第709話 黒竜のスキル

 ヴァレーリエに飛ばしてもらい、上から落ちてくる黒い炎の弾へ一直線に向かっていく。

 空中で剣を抜き、


「≪ホーリー・クロス≫」


 黒い炎に向かって聖属性の攻撃を放つと、黒い炎が赤い炎に変わった。

 思った通り、闇属性か何かの混合の炎だったのだろう。

 普通の炎であれば、俺には効かない。

 同じく、ただの炎ならばヴァレーリエにも効かないだろうが、ユーリとディアナが居るので、両腕を大きく開き、炎の弾を身体全体で受け止めるように……完全に消す事は出来なかったが、小さく分割させる事は出来た。

 しかし、そのままブラックドラゴンまで届けば良かったのだが、炎の弾の衝撃を受けたからか、届くことなく落下を始める。

 このままでは再びブラックドラゴンに攻撃されるだけなので……


「≪分身≫」


 一体だけ分身を出すと、俺の本体の腕を掴み、ブラックドラゴンに向かって投げ飛ばす!

 後は、分身を解除すれば……ブラックドラゴンが目と鼻の先だ!


「人間……? どういう事だ!? それにこの魔力……神の血を飲んだのか! まさか貴様は……神殺し!?」

「そんな訳……あるかっ! ≪ホーリー・クロス≫」


 十字の斬撃がブラックドラゴンの鱗を弾き飛ばす。

 だが、魔族を攻撃した時と手ごたえが違う。

 これはただの連撃でしかないのだが、ブラックドラゴンは、聖属性に弱いという訳ではないのか?

 先程と同じ様に再び分身を使って、再上昇しようとしたところで、


「≪ブラック・ライトニング≫」

「――っ!」


 俺に炎が効かないと分かったのか、今度はスキルを使用してきたようで、突然身体に衝撃が走る。

 おそらく、先程ヴァレーリエの背中に乗って居た時に受けたダメージもこれだろう。

 目で見る事すら出来ない速さの攻撃……先程よりはダメージが小さいが、今のところ防ぐ手立てがないので、連続で攻撃されるとマズい。

 幸い、連発出来るスキルではないようだが痛みで分身が……それでも何とかしなければ!

 この高さから落下すれば、流石に無事では済まない。

 分身を諦め、空間収納からキアラのマントを出そうとして、


「≪ブラック・ライトニング≫」

「がはっ!」


 先程のスキルが俺の身体を貫く。

 黒い……線が見えたような気がする。

 名前からすると、黒い雷……か?

 落下している事は分かるが、身体が動かない。

 どれくらいの時間落下していたのか……もしくは一瞬だったのかもしれないが、背中から地面に落ち、後頭部に何かが触れた。

 防御力が取り柄なので、耐えられるだろうかと、身体を固くしてみたのだが……身体に衝撃が来ない?

 代わりに、柔らかい何かに優しく包み込まれる。


「アレックス! 大丈夫か!?」

「……ザシャ!? 飛んで来てくれたのか。浮遊魔法で運んでいた皆は?」

「そんな事よりアレックスを助けてくれって言って、皆は下で待っているよ」

「ありがとう。助かったよ」


 どうやら、空中でザシャが受け止めてくれたらしく、そのままヴァレーリエの所へ運んでくれる。


「パパっ! ≪ミドル・ヒール≫!」


 岩山に寝かせられると、すぐさまユーリが飛んで来て、泣きそうになりながらも、必死に治癒魔法を使ってくれた。


「ヴァレーリエ! アンタ、アレックスを……ユーリやディアナを殺す気かっ! 背中に人を乗せているんだろ!? アレックスにダメージを肩代わりしてもらっているんだろ!? アイツが家族の仇なのはわかるが、落ちつけ! もしもアレックスが死んだら、私がお前を殺すからなっ!」

「……ごめん」

「それから、いつまでもその姿でもがいていないで、とっとと人の姿に戻れ! それだけで挟まった身体が自由になるだろ!」


 ザシャがヴァレーリエに怒りの声を上げ、その通りだとヴァレーリエがいつもの姿に戻り、岩場から抜け出した。


「アレックス、ごめんなさい」

「今はそれより、奴をどうするかだ。炎なら俺とヴァレーリエが何とか出来る。だが、あの雷のスキルがマズい」


 謝るヴァレーリエの頭を撫でながら、どうしようかと考えていると、


「雷か。見た所、相応に魔力を消費するみたいだから、連発は出来ないみたいだね。だったら、対策は簡単だ。アレックス、今度は私と一緒に飛ぶよ!」


 ザシャから提案があり、ユーリの治癒魔法で体力が回復したので、再び空へ舞う事になった。

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