第710話 黒い雷対策

 雷魔法の対策は容易だ。

 そう言うザシャに身体を抱きかかえられた状態で、再び空へ。

 先程のヴァレーリエに吹き飛ばされた時とは違い、速度は遅いが安定感がある。

 だが、この状態はブラックドラゴンからすれば、恰好の的となる訳で、


「≪ブラック・ライトニング≫」


 早速ブラックドラゴンが雷のスキルを使用した。

 目に見えない程の速さの雷撃のため、ザシャの浮遊魔法の速度では到底避ける事は出来ないのだが……衝撃が来ない!?


「ザシャ!? 一体、どうやったんだ!?」

「ふふ、これさ。私の金属の腕輪を斜め上に投げたんだ。いわゆる、避雷針変わりだね」

「雷ならば、その考え方はわからなくもないが、それなら雷が来る前に投げておかなければならないんじゃないのか?」

「それこそ簡単だよ。雷なんて、かなり強い力を持つスキルだ。発動前にブラックドラゴンの体内に魔力が集まっていくのが分かるし、魔力が雷属性に染まっていくしね」


 これはザシャが魔族だからこその対策だろうか。

 俺にはブラックドラゴンの体内の魔力の変化なんてわからないし、魔力が染まるという感覚もわからない。

 だが、雷のスキルは確実に回避出来ている。

 ゆっくりではあるが、確実にブラックドラゴンへ近付いているというところで、ザシャが焦りだした。


「マズいっ! アレックス、次は雷じゃない! 炎が来るっ!」

「いや、それなら俺が対応出来る。すまないが、支えていてくれ……≪分身≫」


 事前にザシャが炎が来ると教えてくれたので、先程と同じ様に分身を一体だけ出して、黒い炎を斬り、かつ炎を小さく分割する。

 黒い炎も無効化したところで、もう少しで奴に届くというところまで来たので、再び分身を一体出すと、思いっきり投げ飛ばす。

 ブラックドラゴンよりも高い所へ飛んだ分身に視点を切り替えると、


「はぁぁぁっ!」


 硬い鱗ではなく、ブラックドラゴンの瞳に目掛けて剣を突き出して落下する。


「がぁぁぁっ! クソがっ!」


 よし、効いたっ!

 鱗は硬いが、右目を潰す事に成功したので、次は左目……と思ったところで、ブラックドラゴンが大きく羽ばたいた。


「な……逃げただと!?」

「くそっ! ふざけやがって!」

「……いや、違う! 狙いは下だっ! ミオたちを狙っているのか!?」


 ザシャが浮遊魔法で船を運んでいるのを見ていたのだろう。

 俺たちから離れたかと思ったら、ミオたちの所へ急降下していく。

 ミオの結界でブラックドラゴンの急襲を防ぐ事が出来るだろうか。

 不安に思いながら、ザシャと共に俺たちも急降下していくと、


「――っ!?」

「はっ! ウチの事を無視するんじゃないんよ!」


 再びレッドドラゴンの姿になったヴァレーリエが、空中でブラックドラゴンの右側から体当たりし、軌道を逸らすと共に、翼を切り裂いた。

 黒と赤の二体のドラゴンが、ミオたちから少し離れた場所に墜落する。

 俺たちも急降下していくと、墜落した場所に女性の姿に戻ったヴァレーリエを見つけ、慌てて抱き起こす。


「ヴァレーリエっ! ……≪ミドル・ヒール≫」

「んっ……アレックス。アイツは?」

「……居たっ! あそこだっ!」


 ヴァレーリエの一撃と墜落で、ブラックドラゴンもかなりダメージを負っているらしく、人の姿で俺たちから遠ざかるように森の中を歩いていた。

 治癒魔法を使う俺の代わりに、ザシャが走る。


「この、ふざけ……るなっ!」


 ザシャが背後から強烈な飛び蹴りを放ち、体勢を崩したところへ回り込むと、こっちに向かって男を蹴り飛ばす。


「ヴァレーリエ! アンタの仇だ! 最期は好きにしな」


 ディアナを支えながら、何とか降りてきたユーリも加わり、俺と二人で治癒魔法を使っていたヴァレーリエが、近くへ吹き飛んできた男を見て立ち上がる。


「ヴァレーリエ。まだ治癒が……」

「ありがとう。もう十分動けるんよ。そして、ザシャ……感謝するんよ。こいつをウチの手で葬り去る機会を与えてくれて」


 ユーリとディアナには俺の後ろに居てもらい、俺だけでもと治癒魔法を続けていると、倒れている男に近付いたヴァレーリエが口を開く。


「アンタ。最期に一つだけ教えな。どうして、ウチの――レッドドラゴンの棲家を襲った! どうして、パパとママを殺したっ! 答えろっ!」

「……ふふっ。滅びを避けられないブラックドラゴンの道連れにしてやろうと思っただけだ。最後のブラックドラゴンの俺と共に、滅びろ」

「それだけ? そんなのお前たちだけで勝手に滅びろよっ! ウチらを勝手に巻き込むなぁぁぁっ!」


 ヴァレーリエが燃え盛る炎の剣を生み出し……男の身体に叩きつけるようにして振り下ろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る