第711話 誤算
「パパ、ママ……仇は取ったよ」
自らの手で黒竜の男に止めを刺したヴァレーリエが、炎の剣を消してその場に崩れ落ちる。
俺とユーリで治癒魔法を使っていたが、俺たちが使えるのは中級神聖魔法までなので完治はしておらず、かなり無理をしていたようだ。
慌てて駆け寄り、ヴァレーリエを抱きかかえると、
「≪ブラック・ブリザード≫」
炎に包まれた男が起き上がり、黒い風を起こす。
「何っ!?」
「甘いな……俺はブラックドラゴンだ。レッド、ブルー、イエローの三竜の上位種だぞ? 炎、冷気、雷は効かないんだよ。そのレッドドラゴンの女が無知で助かったぜ」
「くっ……」
「おっと。お前とその女に炎が効かないのは分かっている。そして俺の雷は、威力は高いが単発だ。だから、吹雪ならどうかな? 特にその女にはよく効くだろうよ」
俺も知らなかったが、ブラックドラゴンにはそんな特性があったのか!
それでは、レッドドラゴンがブラックドラゴンに勝てる訳がない。
「ただ、残念だ。そのレッドドラゴンの女は、竜人族を増やす為の孕み袋にしてやろうと思っていたのにな」
「お前は何を言っているんだ?」
「何故かブラックドラゴンの雌が全員姿を消し、雄たちが一人、また一人と発狂し自害する中で、唯一残った俺のアイディアでな。レッドドラゴンの村を襲って、一番若い雌を奴隷にしてやったんだ。まぁ誤算は、その女が幼過ぎたのと、どうやったかはわからんが、逃げ出された事だが。まぁその女にもう用は無い。お前にやるよ」
「貴様……」
「おっと、俺に構っている場合か? 周りをよく見てみろよ。じゃあな」
男の声で、俺の腕の中に居るヴァレーリエに目をやると、ガタガタと震えていた。
あの男の言う通り、ヴァレーリエは――レッドドラゴンは炎を武器としているからか、冷気に弱いようだ。
「パパー! ディアナが……」
「ディアナっ!? しまった! ディアナ、大丈夫かっ!?」
「にーに……寒い。寒いよぉー」
俺が冷気耐性スキルを持っているために気付けなかったが、この黒い風はよく見ると黒い雪で、とても冷たいようだ。
天使族のユーリはそれなりに寒さの耐性があるようだが、獣人族のディアナは、暑い西大陸育ちだからか、ヴァレーリエと同じく寒さに弱いらしい。
「≪ミドル・ヒール≫……くっ! ヴァレーリエの体力は回復出来るが、寒さの対策にはならないか」
ダメージを肩代わりするパラディンの防御スキル――ディボーションは勿論使用している。
だが、このスキルは状態異常までは肩代わりする事が出来ず、寒さを防ぐ事は出来ない。
ヴァレーリエの使っていた炎の剣を使えば、この辺りを温める事は出来そうだが、ディアナとユーリの位置が近すぎる。
とはいえ、この黒い猛吹雪の中で離れてしまうのは良くないように思う。
「アレックス……お願いがあるんよ」
「ヴァレーリエ! どうしたんだ!?」
「温めて欲しいんよ」
「それはわかっているんだが……」
「これ……熱いこれで身体の中から温めて欲しいんよ」
って、ヴァレーリエはどこを触っているんだよ!
「ヴァレーリエ。こんな時に何を言っているんだ!?」
「こんな時だからなんよ! 今、アレックスにアレを注いでもらわないと、本当に死んじゃうんよ」
えぇ!? この状況で……なのか!?
だが、ヴァレーリエは苦しそうに震えているし……この躊躇でヴァレーリエが亡くなってしまうような事になるのは本当に嫌だ。
「わ、わかった」
「あ、あれ? にーにの……前に裸で駆けっこした時と、形も大きさも違う?」
「ディアナ。あんたもアレックスにこれを挿れてもらうんよ。でないと、死んじゃうんよ」
顔が真っ青になっているヴァレーリエが、ディアナにもアレを勧めだす。
いや、ディアナも頬ずりとかしないでくれ!
「あったかい……にーに。私も! 私も身体の中から温めて! 耐えられないくらいに寒いのっ!」
「アレックス、早く……獣人族もウチと同じで寒さに弱いんよ」
「わかった。わかったよ……≪分身≫」
分身を一体出すと、ヴァレーリエとディアナに……くっ! あのブラックドラゴン……許さないからなっ!
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