第195話 ハグでヒーリング

 エリーたちが隠し持っていた俺の絵の話が終わった後、部屋の隅で成り行きを見守っていたビビアナが近付いてきた。


「アレックス様。皆様はどちらへ行かれたのですか?」

「ん? あぁ、スノーウィから聞いているかもしれないが、ここでは各人に何かしらの役割があるから、それぞれその仕事や作業をやりに行ったんだよ」


 本来は、昨日もビビアナを客人としてもてなさなければならなかったのだが、その……熊耳族の掟の話だとか、ボルシチの話だとかで、全然出来ていない。

 まぁビビアナが、客人ではなく妻として扱って欲しいと言ったので、皆と同じ様に過ごして居たというのもあるが。


「では、自分も何か役割を与えて欲しいッス。乳牛の世話……は、よく分からないッスが、何故か出来なくなってしまったので、自分の腕力を活かした役割を与えてもらえると助かるッス」


 確か、ビビアナはグラップラーという戦闘職だと言っていたな。

 本来であれば、モニカやエリーと同じく地下洞窟での魔物狩りが良いと思うのだが、流石に来ていきなり魔物と戦ってくれというのは、どうかと思う。


「では、すまないが、暫くノーラというリス耳の少女の手伝いをしてくれないだろうか。この家の西側に大きな宿を作ろうと思っているんだけど、ビビアナが手伝ってくれると非常に助かるんだ」

「わかったッス! 今朝見かけた、リス耳族の少女に所へ行けば良いッスね?」

「あぁ。西側に居るはずだが……ツバキ、一緒に行ってノーラにも説明を頼む」


 今日はシェイリーの所へ行くと話したからか、待機していたツバキに依頼すると、一瞬悲しそうな顔をした後、すぐさまビビアナを連れて走って行った。

 大急ぎで行って戻り、何が何でもシェイリーの所へ行くという、決意の表情を……って、その強い意志を、もっと違う事に使ってくれないだろうか。

 一先ず、シェイリーの所へ行くのは、俺とエリーとユーディットにミオか。

 ユーディットは、シェイリーの所でアレを……というより、戦闘職としてついて来てくれるようだ。


「おにーさん。私は何をすれば良いかしらぁ?」

「ボルシチは、乳……こほん。えーっと、その……何が出来るんだ? ボルシチのジョブやスキルは何かって、分かるか?」

「そんな事を言われても、分からないわよぉ」

「……だよな。し、仕方が無い。ボルシチもシェイリーの所へ行って、スキルを見てもらうか」


 実際、俺もボルシチから何かのスキルを貰っているようなのだが、それが何か分からないんだよな。


「ほぉ。つまり、アレックスはシェイリー殿のところで、この乳女を交えて……」

「ち、違うぞ! その、ボルシチが何を出来るのかを知っておいた方が、適材適所というか、苦手な事をするより得意な事をする方が、ボルシチだって良いはずだからさ」

「ふふふ……まぁそういう事にしておくのじゃ。我は誰が混ざろうとも気にせぬのじゃ。ただ、我の胸がもう少し大きければ、アレックスの子種がもっと沢山貰えたかもなのじゃ」


 いや、胸の大きさなんて関係無いんだってば。

 というか、本当にボルシチはスキルを知りたいだけなんだぁぁぁっ!


「えっとぉ、よく分からないけどぉ、シェイリーさんっていう人の所へ行って、皆で交尾するのぉー? 昨日の夜は凄かったからぁ、嬉しいのぉー」


 ボルシチ、違うから。

 あくまで目的はスキルなんだってば。

 ボルシチの言葉でエリーが無言で俺と腕を組み、それを見たユーディットが背中から抱きついてくる。

 そんな状態のままシェイリーの所へ行き……まぁその、案の定と言うか、いつも通りと言うか、スキル云々の前にミオやボルシチの言う通りとなってしまった。


「……間に合って良かったです。私だけ仲間外れなんて、悲しいですから。しかし、それにしても今日は更に凄かったです……」

「そうだな。何というか、これまでとはまた違う次元に行った気がする。いや、ツバキの慌てっぷりから察して合流したが、本当に良かった」

「うむ。しかし……胸の大きさで負けたのは悔しいな。ご主人様のミルクをいただくだけではなく、自身のミルクを飲ませるという事も私には未だ出来ないし」


 地下洞窟移動時には居なかったツバキとサクラにモニカが、いつの間にか混ざり、満足そうな表情を浮かべていたので、とりあえず説教はしておく。

 だが、互いに全裸なので、あまり説得力は無いし、三人とも説教されながら視線が俺の……うん、失敗した。

 ちゃんと全員が服を着てから、説教すべきだったな。

 とりあえず、皆が満足しているようなので、ようやく本題へ。


「アレックスには、二つスキルが追加されているな。一つは……寝技での攻撃力が上がるという、体術系のスキルだ」

「あー、やっぱりねー。アレックスがビビアナさんからスキルを得た後、凄かったもん。あのチャージスキルを貰った後も凄かったけど、それを超えたからね」

「おそらく、ユーディット殿のチャージスキルと寝技スキルの両方の効果が発揮されているのでしょう。相乗効果で物凄かったです」


 まぁある程度予想はしていたが、ビビアナのグラップラーのスキルなんだろうな。

 ミオやモニカは大丈夫そうだったが、皆がことごとく気を失っていったし。

 ……だが、それにしては今日は誰も気を失っていないのは何故だ?


「それと、もう一つ。そちらの乳女から得たのであろう。相手を抱きしめている間、癒しの効果を与えられるようだ」

「癒し? 治癒効果があるという事か?」

「……あ! それ故に、今日はアレックス様に抱いていただいても、気を失わなかったのか。……限界を越える気持ち良さが延々と続き、おかしくなりそうでしたからね」


 サクラの言葉で、皆が大きく頷いているが、それはそれで大丈夫なのか?

 今後は、皆が気を失わなくなるようだが……それはさておき、ボルシチがベビーシッターというジョブを得ている事をシェイリーから教えてもらい、一旦家に戻る事になった。

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