第297話 元兎耳族たちの村

「よし。じゃあ行くか」


 ソフィの魔導列車で東の休憩所に食料を集めたので、ここからは小型ゴーレムのシーサーに、荷物を載せた荷車を引いてもらい、リザードマンの村を目指す。


「うーん。ソフィ殿の魔導列車が速くて楽だったので、もっとレールを伸ばして欲しいと思ってしまいますね」

「流石に、このトンネルの中を通すのは難しいだろう。そもそも、あの魔導列車が通れる程に、トンネルを大きく出来ないだろうし」


 モニカの希望は分からなくも無いが、ニナは小柄で背が低いし、大きなトンネルを掘るのはかなり大変だろう。

 そんな事を思っていると、


「乳女殿。自分の足で歩かないと……太るぞ」

「ぐっ……だ、誰かさんと違って、胸に栄養が行くから良いのだ」

「ふっ。聞くところによると、太った事に気付いて痩せようとすると、胸から痩せるらしいぞ? もう乳女とも呼べなくなるな」

「ぐぬぬ……あ、歩いてるし!」


 サクラの言葉で、モニカが慌てだしたが、別に太ったりはしていないと思うのだが。


「んー。ウチは太る事は無いと思うけど、胸はもう少し欲しいかなー。その辺り、アレックスはどうなんよ?」

「えっ!? いや、俺は胸の大きさは気にしないぞ?」

「……言われてみれば、それもそうだったんよ。妻にモニカやカスミが居るけど、一方でリディ……いや、やっぱり何でも無いんよ」


 どういう訳か、ヴァレーリエが途中で言葉を濁したけど、何があったんだ?

 何故かヴァレーリエが、何かから隠れるかのように、俺の腕に顔を埋めてくる。

 チラチラ後ろを伺っているし、後ろに誰が……


「ん? アレックスさん。どうかされましたか?」

「マスター。何かありましたか?」

「いや……何でも無いよ」


 うん。リディアとソフィが微笑んでいるだけだった。

 どちらもスレンダーだから、あまり胸の話はして欲しく無いのか、目が笑って無いが、流石に怒り出したりしないはずだから、大丈夫……大丈夫だよな?


 こっちは普通に魔物が現れる場所なので、シーサーを先頭に、ミオやカスミにナズナと、基本的に魔物が出てもある程度大丈夫なメンバーで来ているが、トンネルを抜けて暫く歩くと、


「ぱぱー! とおくに、むらがみえてきたよー!」

「そうか。ありがとうな、ユーリ」

「えへへー」


 メイリンたちとの連絡係として来てきてくれている、ユーリが声を上げる。

 ちなみに、俺にとって衝撃の事実なのだが、先日の人形たちが全員子供を産んだ事件で、この幼いユーリまで女の子を生んでいるんだよな。

 三歳くらいの、本当に幼い女の子で、背中に小さな羽が生えている。

 今は、ユーディットが育児の練習という事で、家で面倒をみながら俺やユーリの帰りを待ってくれているはずだ。

 ……と、可愛いユーリの娘の事を思い浮かべていると、


「皆の者! 周囲を警戒して進むのだっ!」

「はい! ブリジット様!」


 ブリジットと共に、熊耳族の少女たちが、俺の周りを囲みながら進む。


「ブリジット。この辺りの魔物はそんなに強くないし、俺より自分たちを守ってくれ」

「アレックスが強いのは重々承知しているが、万が一の事があったら、我々は生きていけないからな」

「そうですっ! ブリジット様の言う通り、アレックス様のアレ無しで私たちは生きていけませんっ!」


 うーん。リザードマンの村で一泊させてもらおうかとも思っていたが、流石にこの人数は迷惑だよな。

 魔族領に作った熊耳族用の畑の世話を無視する事は出来ないと、ビビアナと共に熊耳族の半分が残って居るが、それでもここに十人以上来ているし。

 少し急がないといけないが、一気に元兎耳族の村まで行ってしまおうか。


「ユーリ。メイリンに言って、ツバキの人形に予定が変わったと伝えてくれないか」

「うん、いいよー!」


 ふよふよと飛んで来て、抱きついてきたユーリを介して、先にリザードマンの村で待っているツバキへ事情を説明し、


「メイリンママから、ツバキおねーちゃんが、まかせてーって、いってたってー」


 おそらく大丈夫だろう。

 ……たぶん。

 それから少し急いで歩いて行くと、リザードマンの村が見え、ツバキとヌーッティさんが待っていた。


「あ、アレックス様! お待ちしておりました。ヌーッティ殿には、事情を説明済みです」

「ヌーッティさん。先に泊めて欲しいと伝えていたというのに、申し訳ない」

「いえ。うちの村では流石にこれほどの大人数をおもてなし出来ませんし、気になさらないでください」


 いや、もてなす必要は無いんだが……まぁいいか。

 それから、元々予定していた食料を渡し、シーサーと荷車を預かってもらう事に。

 ここまではソフィが作った道があったが、この先は道らしい道なんて無いからな。

 シーサーが抜けて、代わりにツバキが加わり、兎耳族の村を目指す。

 そして、日が沈み始めた所で到着したのだが、


「お兄さん! 何かが……潜んで居るわ。気を付けて!」


 無人になっているはずの兎耳族たちの村で、カスミが警戒を呼び掛けた。

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