第298話 吊るし責め

「≪ディボーション≫」


 移動中にも使用していたが、改めてパラディンの防御スキルをリディアやブリジット、ユーリやナズナに使用する。

 ……残念ながら人数が多過ぎて、ここに居る全員に防御スキルを使用する事が出来ないので、対象は俺の独断で決めさせてもらった。


「ふふん。確かに何か居るけど、気にする必要なんて無いんよ。ウチが炎を一吹きで……」

「いや、そんな事をしたら、今晩寝る場所がなくなるぞ」

「……それは困るんよ」


 ずかずかと一人で前に進んでいたヴァレーリエだが、俺の言葉で悲しそうに戻って来る。

 まぁこういう場所での戦いは、サクラたちの方が向いて居るだろう。


「アレックス、そこの家だ。何かが居るぞ」

「そうなのか?」

「あぁ。熊耳族は鼻が利くんだ」


 ブリジットだけでなく熊耳族の少女たちも、五軒ある内の端にある家を指し示すので間違いないだろうと、その家に近付き神聖魔法で中を照らす。

 その直後、


「≪バックスタブ≫」


 何かが俺の首に触れた。


「ん? 何だ?」

「えっ!? ……お、オレのナイフの方が折れただと!? 防具を付けていない箇所を狙ったのに!」

「お兄さんっ! くっ……私の目の前で、こんな事を許すなんて! いくら不意打ち系のスキルとはいえ、不甲斐ない。……許さないわよ」


 どうやら何らかのスキルを使い、俺の背後に誰かが移動してきて、首を切りつけられたらしい。

 だが、今はこの大人数だからな。

 守る者が多ければ多い程に防御力が上がるという、ロードナイトのジュリから貰ったスキルに助けられたようだ。

 その一方で、


「≪分身≫」

「なっ!? 女が増えたっ!? しかも、速いっ!」


 分身スキルを使ったカスミが……凄いな。分身を五体も出せるのか……って、見ている場合じゃなかった!

 本体と分身とで、それぞれ別々の動きをして、俺に切りつけた武器を叩き落とす者、腕を捻り上げる者、何処からか取り出したのか、それとも何かのスキルで生み出したのか、ロープのような物で縛り上げる者、そして常に喉元に短剣を突き付ける者……そのどれもが凄い速さで行われ、一瞬で無力化させた。

 だが、そこまではともかく、服まで切り捨てているので、


「待った! カスミ、そこまでにしておくんだ」

「……命拾いしたわね」


 見た事のない複雑な縛り方で、胸が強調された状態で身動き出来なくされた、大きな耳の生えた女性が、屋根から吊るされている。

 いや、どうやったら、あの一瞬でこうなるんだよ。


「おぉ、久々に母上の本気を見たな」

「えぇ。瞬間吊るし責め・極み……亀甲縛りの状態で宙吊りにするなんて、私にはどれだけ時間が掛かるのやら」

「サクラお姉ちゃん、ツバキお姉ちゃん。一体、何が起こったの? ナズナ、お母さんの動きが全く見えなかったんだけど!」


 サクラたちが驚くレベルなのだから、やはり凄い技だったのだろう。

 俺も目で追うのがやっとで、仕掛けられたら回避出来ないかもしれない。


「あまり魔力がある方ではないと思っていたのに、あんな事が出来るなんて……実はカスミさんって、胸に魔力を蓄えているのですか!?」

「うーん。魔力は私の足下にも及ばないけど、スピードは凄いんよ。五体も分身を出せたら、一人でアレックスを独占出来るんよ」

「宙吊りか……そう言えば、天使族たちも空中でアレックスとしていたのじゃ。ふむ……結界を応用して、宙に浮くような感じで出来ないか、考えてみても良いかもしれぬのじゃ」


 いや、リディアとヴァレーリエに、ミオの高魔力組は何を言っているんだよ。


「お、おい! 降ろせよっ! というか、オレを全裸にひん剥いた上に吊るすなんて……しかも何か飲ませただろっ! 一体何を飲ませたんだっ!?」

「あなたは、私の主様を殺そうとしたでしょ? 当然、その報いは受けてもらわないとね」

「ま、まさか毒……」

「えぇ。この瞬間吊るし責め・極みは拷問用の技。何処まで耐えられるかしらね?」


 カスミは吊るし上げただけではなく、毒まで飲ませていたのか。

 それは、俺も見えていなかったな。


「カスミ。俺は無事だから、命までは奪わなくても……」

「大丈夫です。命までは奪いませんよ。……この者が耐えらるかどうかは、知りませんが」

「……ちなみに、何を飲ませたんだ?」

「媚薬です。シノビ特性の……ですが」


 シノビの媚薬って、あれだろ? ツバキの人形ツキがケイトに使った、アレを注がないと狂い死にするやつ。

 しかも、俺が使える中位の解毒魔法を使うと、逆に強く作用してしまうっていう。

 既に俺の考えている事を察したのか、サクラとツバキが嬉しそうにしているんだが……やっぱり、そうなるのかっ!?

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