第13話 災厄級の魔物を目の当たりにするニナと、機嫌がよく変わるリディア
「おぉ……凄いな! この辺りの地面は硬いのに、簡単に耕せるようになったぞ」
「えへへ、でしょ? これがニナの――ブラックスミスの強化スキルの効果」
ニナがブラックスミスの≪武器強化≫スキルを用いてクワを強化してくれたので、早速畑でその効果を試してみた。
その結果、クワで畑を耕すのは結構な重労働だったのだが、かなり楽に耕せるようになったと思う。
「じゃあ、お兄さんの剣にも……≪武器強化≫」
「これで、俺の剣も強化されたのか」
「うん。この壁の外に魔物が居るのなら、試し斬りしてみると良いかも」
「いや、それはまた後で良いよ。必要も無いのに壁を開けてもらって、二人を危険に晒すわけにはいかないからね」
今の所、シャドウ・ウルフしか出現していないけれど、万が一という事もある。
俺一人ならまだしも、そうではないので、焦らずコツコツと進めて行った方が良いだろう。
「でも、ニナはブラックスミス――武器を扱う鍛冶師。今はツルハシだけど、鉱物を見つけたら大きな戦斧を作って、魔物だってバシバシ倒すよ?」
「凄いな。ニナは斧を扱うのか」
「うん。この辺りにどんな魔物が出て来るかは知らないけど、オークくらいなら負けない!」
オークか……冒険者の強さに換算すると、B級くらいだろうか。
シャドウ・ウルフと戦うには、少し力不足な気もするので、一先ず伏せておこうかと思っていたら、
「ニナさん。この辺りに出る魔物は、シャドウ・ウルフですよ?」
リディアがすぐさま言ってしまった。
「シャドウ・ウルフ? それって、あの災厄級の? 流石にそんな魔物は居ないでしょ。だって、そんなのが居たら、いくらお兄さんが強くても倒せる訳ないもん」
「……あー、いや。シャドウ・ウルフが現れるのは本当なんだ」
「またまた。リディアもお兄さんも、ニナをからかわないでよ」
そう言って、ニナがペチペチ俺の腕を叩いてくる。
まぁ、信じられない気持ちはよく分かるが……しかしリディアもニナも、俺の事を叩き過ぎじゃないか?
少しも痛くはないんだが、二人とも事ある毎に俺の腕や背中を叩いているような気がする。
……そんな中、ふと視線を感じてリディアを見てみると、何故かジト目で俺とニナを見ていて、
「アレックスさん。ニナさんへ実際にシャドウ・ウルフを見せた方が宜しいのではないでしょうか?」
こんな事を言ってきた。
「いやしかし、無意味にシャドウ・ウルフを倒さなくても良いんじゃないのか?」
「いえ、ニナさんにこの地の現状を正しく理解してもらう為ですよ。変に誤解したままだと、いざという時に油断していたりして、危険な気がします」
「リディアの言う事も一理あるか。わかった……じゃあ、いつもの様に壁を開いて、畑一つ分南に進めるか」
リディアの提案により、クワから剣と盾に持ち替え、壁の一番南側へ。
「ニナ。今からリディアが壁を少しだけ開く。おそらく魔物が居るけど、今回は俺が倒すから、後ろで見ていてくれ」
ニナが分かったと頷き、後ろへ下がった所で、
「では、アレックスさん……開けました! 一体来ます!」
「ちょっ!? こ、この大きくて黒い狼みたいなのって……まさか本当に!?」
「≪ホーリー・クロス≫っ!」
リディアが壁を開け、現れたシャドウ・ウルフに俺が攻撃スキルを叩き込む。
「≪ホーリー・クロス≫……お! ニナが武器を強化してくれたおかげだな。二回の攻撃で倒す事が出来たよ」
「あ、あわわわ……」
「ニナ? 大丈夫か?」
「す、すみません。こ、腰が抜けちゃって……本当にシャドウ・ウルフが出現するんだ」
「あぁ。幸い、聖属性が弱点みたいで、何とか倒せているけどね……って、本当に大丈夫か?」
「あ、あの……た、立てないから、起こして」
ペタンと地面に座り込んでしまったニナを起こしてあげたけど、まだ膝がガクガクしていたので、
「無理はするな。一旦、小屋まで連れて行こう」
抱き上げ、小屋で休ませる事にした。
「あー! アレックスさん、それは私がしてもらう番です!」
「え? リディア?」
「いえ、その……せっかくシャドウ・ウルフを倒したので、壁を広げないと」
「そうだが……ニナがこの状態だからな。リディアには歩きながら魔力を供給するから、少しだけ広げようか」
「えぇ……私もアレックスさんに、お姫様だっこしてもらいたいのに……」
いつもはリディアをおんぶしながら壁を広げて行くけれど、ニナを抱きかかえているので、都度リディアと手を繋いで魔力を回復させていると、
「あの……手を繋ぐっていうのも、悪くないですね」
よく分からないけど、最初は口を尖らせていたリディアの機嫌が、少しだけ良くなった。
リディアは手を繋ぐのが好きなのか? でも、おんぶを要求してくる事も多いが。
……難しいな。
相変わらず女性の機嫌がよく分からないと思いながら、壁を完成させて小屋へ戻った。
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