第663話 サイディ村

「……こほん。そろそろ良いだろうか」

「はい! すっごく……すっごく良かったです!」

「ご主人様。結衣も幸せですっ! これからも宜しくお願い致しますっ!」


 村の入り口に居るミオたちも、皆気絶……もとい満足しているようなので、分身を全て解除する。

 それから、抱きついて離れてくれない駱駝耳族の女性に白虎の事と魔族領の事を聞いてみたのだが、


「残念ながら、どちらも場所は知らないですね。勿論、白虎様のお話はいろいろと知っていますけど、魔王に挑んだ後の事は聞いた事が無いです」


 ファビオラたちと同じく、知らないと言う答えが返ってきた。


「そういう情報を得るのであれば、街へ行くのが良いと思っているのだが、この辺りに大きな街はあるだろうか」

「ありますよ。このサイディ村から少し行った所にラマスという街がありまして、そこは駱駝耳族だけでなく、様々な獣人族が住んでいますので、いろんな情報が得られるかと」

「そうか。ありがとう。そのラマスという所には、どう行けば良いのだろうか」

「この村の地下通路と繋がっていますから、一本道で迷う事無く行けると思います。……そうですね。その通路までご案内致しますね」


 おぉ。砂漠を進まなくても街へ行けるのはありがたいな。

 更に、直線距離であれば、大した距離ではないという。

 なので衣服を整えると、ユーリを抱っこし、まずは村の入口へ。


「……この黒いのは何だ?」

「怪しいな。石を投げても跳ね返って来るし」

「誰か、中へ入ってみろよ。……そうだ。長い槍とかで中を突いてみよう!」


 家を出て入口へ向かうと、ザシャの闇を駱駝耳族の男性が囲んでいた。

 まぁよく考えたら、一人を止めたところで、他の村人が怪しんで人を集めるよな。


「すまない。これは、俺の仲間の魔法なんだ。砂漠を渡って来て、何とかこの村まで辿り着いたところで体力の限界を迎え、日差しを遮る魔法を使ったんだ」


 全てが本当ではないが、全くの嘘でもない言い訳をしてみると、村人たちが疑いの眼差しで見つめてきた。

 まぁ闇を生み出す魔法なんて普通は使えないし、そういう目になるのも分かる。

 だが中の様子がわからないままで、ザシャに闇を解除してもらうのは怖いんだよな。

 最悪、全員全裸で酷い事になっている可能性もあるし。

 とはいえ、他にどういう言い訳をしようかと考えていると、先程家に案内してくれた女性が口を開く。


「この人間族の男性は私が保証します。怪しい人ではありません」

「次期村長がそう言うなら……」

「というか、人間族か! これは珍しい。なるほど……人間族には光を遮る魔法があるのか」


 どうやら先程の女性は、この村の偉い人だったようで、集まっていた男性たちがゾロゾロと去って行く。


「すまないな。助かったよ」

「いえ。この村に居る限りは私が貴方をお守り致しますので、ご心配なく」


 次期村長と呼ばれる女性に抱きつかれながら、ザシャの闇の中へ呼びかける。

 ただ、ミオが音を遮る結界も張っているから、聞こえているかどうかは分からない。

 中から反応が何もないあたり、聞こえていない……って、全員気絶しているのか。

 分身を一体残しておくべきだったと思いつつ、コンコンとミオの結界をノックしてみる。

 すると、パリンとガラスが割れるような音と共に、遮っていた結界が消えてしまった。


「あれ? ……あ、そうか。ミオが気絶しているから、結界の強度が落ちていたんだな。きっと」

「パパー。ミオさんのけっかいは、おきていても、ねていても、こうかはおなじだよー?」

「……こほん。とりあえず、中に入って皆を起こしてくるよ」


 ユーリを抱っこからおんぶに変えて闇の中へ入ると、手探りで周囲を探り……何かに触れた。


「誰かわからないが、起きてくれ。出発するぞ」

「んっ……この感触は、ご主人様の手っ! ご主人様っ! そこを触られているという事は、聖水を御所望なのですねっ!?」

「この声は……モニカ? って、待った! ザシャの闇で見えていないだけだっ! 抱きつかなくて良いから、服を着てくれっ! あと、聖水も要らないからっ! モニカぁぁぁっ!」


 モニカが聖水生成スキルを発動させた為、俺の手が……泡魔法で綺麗に洗ってから出発する事にした。

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