第293話 モニカの料理

 ソフィの魔力補給……に便乗した熊耳族やカスミたちが満足して解放されたので、畑の拡張と東の休憩所に向けての壁の拡張を進めていく。

 ソフィが作ってくれた魔導列車の凄さは十分わかったので、後はレールを敷設すれば、移動がかなり楽になるな。

 しかし、魔導列車の動力源がソフィの魔力だから、俺のアレで動いているという事になるのだが……考えないでおこう。


「へぇー、魔力で動く鉄の箱? でも、ウチが飛んだ方が早いんよ」

「もちろん、早さではヴァレーリエの圧勝なんだが、目立つし、荷物を運んだりするのは大変だろ?」

「まぁ確かにそうだけど……アレックスがいい事してくれたら、疲れなんて吹っ飛ぶんよ」


 そう言いながら、ヴァレーリエが胸を押し付けてくる。

 ただでさえ、作業が遅れているから、これ以上遅くなるような事はしないで欲しいのだが。

 ヴァレーリエやテレーゼが押しかけてくるが、それぞれの仕事をするように言って、皆で頑張る。

 夕方まで頑張ったが……うん。まだ掛かりそうだな。

 一先ず、夕食の為に皆で家へ帰ると、


「ご主人様! 今夜のお食事は、私が用意致しました。是非、ご堪能下さいませ」


 ヴァレーリエやテレーゼと同じ様に、エプロン姿のモニカが出迎えてくれた。


「……って、おいモニカ」

「はい。何でしょうか?」

「いや、どうしてそんな格好なんだよ」

「え? 新婚の妻は、常にこの格好であるべしと、我が家のメイドに教わったのですが」


 そう言って、モニカがクルリと一回転……うん。正面から見た時に思った通り、裸エプロンだった。

 モニカの家のメイドさんは、一体何を教えているんだよっ!


「な、なるほど。け、結婚したら、白いフリルのエプロンだけで、全裸で過ごすものなんですね」

「ティナ。全ての家がそういう訳ではないからな?」


 何故か、こんなどうでも良い事をメモしようとしていたティナを止めると、


「あ、そういう事ですか。失礼致しました。我が家では裸エプロンと教わっておりましたが、アレックス様の家では全裸だったのですね。郷に入っては郷に従え。今すぐに……」

「脱ぐなーっ! むしろ服を着てくれ!」

「えぇー。しかし、料理の準備もありますので、とりあえずこのままで居りますね」


 エプロンを脱ごうとしたモニカを止め……逃げられた。

 ステラはともかく、ティナは年齢的に宜しくないので、本当に変な事はしないで欲しいのだが。

 キッチンへ逃げたモニカは一旦置いておいて、リビングへ行くと、各席に一口で食べ終わってしまいそうな、小さな料理だけが置かれていた。


「ん? モニカ?」

「ご主人様。今宵はコース料理です。給仕をサクラ殿に手伝っていただき、私が愛情を込めて作った料理を振舞わせていただきます」


 なるほど。コース料理か。

 ヴァレーリエとテレーゼは、それぞれの故郷の味を出してきたが、モニカは俺やエリーたちと同郷だからな。

 ちょっと趣向を変えて来たという事か。

 前菜から始まり、スープ、ウサギ肉料理、サラダにパン……と、一品ずつ出てくる。

 これはこれで、普段と違って悪く無いと思っていると、


「アレックス様。それでは、乳女……もといモニカ殿が用意されました、本日のメインディッシュとなります。皆様も、お皿をお持ちになって、どうぞお取りください」


 そう言って、何故か物凄く冷めた目のサクラが、台車に乗せられた大きな何かを運んで来た。

 布が掛けられており、まだ中身は分からないが、人くらいの大きさがあるのではないだろうか。

 真ん中よりも、少し横が高く盛り上がっており、一体何だろうかと待っていると、サクラがその布を一気に取り除く。


「……って、おい。モニカ」

「我が家に伝わる伝統料理……女体盛りです。好きな部位からお食べください」

「食べられるかっ!」

「大丈夫です! 身体中隅々まで綺麗に洗っておりますので。あ、ご主人様はそのままダイレクトに口へ含んでいただいても大丈夫ですよ。ちなみに、オススメは一番上に乗っているピンクの……」

「いや、食べないって!」


 台車に全裸で横たわったモニカの上に、リザードマンの村産だと思われる魚の刺身が並べられている。

 当然刺身の下にはモニカの白い肌があるだけで、刺身を食べたら、いろんな所が見えてしまう訳で。


「なるほど。アレックスさんは、普段このようなお食事を……」

「食べてないから! ティナは変な事をメモしないように!」

「……料理への冒涜ですね」


 またもやティナが変な事をメモしようとしているし、料理が好きなリディアは怒っているし、どうするんだよ……と思っていると、


「お魚っ! いただきまーすっ!」

「えっ!? ムギ殿っ!? 待って! ダイレクトに食べて良いのはご主人様だけ……おぉぉっ! 猫だから!? 舌がザラザラしていて……あぁぁっ! そ、そんな所をっ! ご主人様とはまた違う新しい感覚が……ふわぁぁぁっ!」


 ムギがお刺身を嬉しそうに食べ、一方のモニカは何かに耐えるようにして、身体を震わせている。


「ティナもノーラも、お風呂の時間だな。ティナも、たまには皆と入っていくか?」

「そ、そうですね。広いお風呂も良いのですが、広すぎて寂しいですしね」

「じゃあ、ニナやソフィも一緒に入ってくれ。……そうだな。ステラやエリーも頼む。俺は……後片付けをするよ」


 途中までは悪く無かったんだが、モニカもテレーゼも最後が酷く……三人の料理対決はヴァレーリエの勝利で幕を閉じた。

 ……とりあえず、モニカは料理禁止にするか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る