第292話 百人乗っても大丈夫なアレ

 昼食を終え、畑の拡張を行っていると、ソフィがやって来た。


「マスター。一先ず、例の魔法装置の試作版が出来ましたので、南西エリアに来ていただけないでしょうか」

「も、もう出来たのか!? 流石だな」

「かつてニナさんが作ってくださった物がありましたので」


 以前より課題となっていた、東のリザードマンの村へ行くのに時間がかかり過ぎるという問題に対し、ソフィが解決策として提案してくれた魔法装置の試作品が早くも完成したらしい。

 ただ、それを使う為の整備……俺やリディアの作業が、想定外に増えた人形の食糧問題対応で遅れてしまっているのだが。


「まだ試作版ですので、人の少ない南西エリアで試走行してみたいと思います」

「わかった。何か手伝う事はあるか?」

「そうですね。本格運用となると魔力消費が多くなると思いますし、試作版でも動力が魔力ですので、都度補給をしていただけると」

「……あ、後で頑張るよ」


 リディアとメイリンに断り、俺とソフィ。それから見学のティナとで南西エリアに。

 そこには馬車くらいの大きな鉄の塊があり、ニナが待っていた。


「凄いな。これはニナも大変だっただろ」

「ニナは外側だけだから、そんなにだよー。この中はよく分からない物がいっぱいだから、ニナは触れないけどねー」

「中は駆動機関や制御装置などですが、ニナさんの協力がなければ、ここまで早く作れなかったと思いますし、何よりマスターの魔力供給がなければ動きませんから」


 そんな事を言いながら、ソフィが何かをいじり、


「では早速、試走行したいと思います。危ないですから、ニナさんが敷いてくださっているレールから離れてくださいね。では……魔導列車、発進!」


 大きな鉄の塊が、ゆっくりと動き出した!


「これは……何だかロマンを感じるな」

「一先ず、ニナさんが南東エリアの熊耳族さんたちの家付近まで、レールを敷いてくれています。制御も問題無さそうですし、乗ってみますか?」

「あぁ、是非頼む」


 ソフィが作ってくれた魔導列車はレールの上しか走らないという事なので、そこを避けて畑や家を建てれば、今まで大変だった移動がかなり楽になるという。

 流石に、ニナが作ってくれたトンネルを、この魔導列車が通れるくらいに大きくする事は難しいが、東の休憩所までの時間が短くなるだけでも、絶大な効果だ。


「お兄さん! ニナも乗りたーい!」

「わ、私も乗せてもらって良いですか!? と、とっても気になります!」


 ソフィによると、百人乗っても大丈夫! という事だったので、皆で乗せてもらい、


「では参ります。発進!」


 始めはゆっくりと。少しずつ速度を上げ……あっという間に南西エリアへと到着した。


「おぉぉ……たった、これだけの時間でここまで来られるのか」

「はい。レールを敷かないといけないという手間はありますが、荷物を運んだりする事も出来るので、大きな時間短縮になるかと」

「そうだな。畑の拡張と並行でレールの敷設を行っているが……先ずは東の休憩所へ。出来れば、あまり活用出来ていない南の小屋にも繋げたいところだな」


 流石にシェイリーの魔法陣の場所は遠すぎて無理だが、以前ノーラに作ってもらって、殆ど使えていない南の休憩所には行けるようにしたい。

 せっかく立派な小屋を作ってもらったんだから、何かに使いたいしな。

 それから、ソフィが魔導列車を西エリアに戻し、


「マスター。では、魔力補給をお願い出来ますか?」


 アレを求めてきた。


「そ、そうだな。えーっと、ティナ。俺はちょっと別作業があって、一旦見学は中断でも構わないだろうか」

「え、えーっと、ソフィさんへの魔力補給は見学出来ないのでしょうか?」

「え!? いや、ただ俺のスキルで魔力を渡すだけだから、見ていても何も面白く無いと思うんだが」

「あ……えっと、パラディンのシェア・マジックっていうスキルでしたっけ。そっかー……じゃあ、私も別のお仕事をしてきますー!」


 よかった。

 ティナがギルド職員でパラディンのスキルの事を知ってくれていて、助かったな。

 魔導列車を降り、来客用の宿へ向かうティナを見ながら、胸を撫で下ろして居ると、


「では、マスター。失礼します」

「あー、いいなー。ねぇ、お兄さん。ニナもー!」


 いきなりソフィにズボンを脱がされ、普段は控えめなニナも混ざろうとしてくる。


「アレックス様。私にもお願いします」

「お兄さーん! カスミちゃんにもお願ーい!」

「アレックス。当然、我にも頼むぞ」


 って、サクラやミオたちは、何処から現れたんだよっ!

 魔導列車の荷台で分身スキルを使わされる事になり……どうやって嗅ぎつけるのか、いつの間にかヴァレーリエやテレーゼたちも混じっていた。


「……って、ソフィ!? これ、動いてないか!?」

「あっ! 失礼しました。つい魔力補給に夢中で……もう大丈夫です。ロック致しましたので」


 そう言って、魔導列車が停止したのだが、


「あー! アレックス! そういう事をするなら私も混ぜてもらおう! 朝の続きをするのだ!」

「自分もしたいッス! もう旦那様のが入っていないと、変になりそうッス」

「アレックス様……昨晩は凄かったですね。続きを……続きをお願い致します」


 止まった場所が熊耳族の家の近くで……百人とは言わないが、三十人くらいが乗る事になってしまった。

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