第294話 お姫様抱っこに喜ぶティナ

 翌朝。昨日は料理でいろいろあったが、リディアの作ってくれた朝食をいただき、早く壁の拡張を終わらせないと……と考えていると、


「旦那様。北の小屋から、旦那様を呼ぶ声がするとの事です」


 メイリン経由で人形の言葉を聞き、移動する。

 今の所、通話魔法を使うのはタバサだけなので、ティナも連れて行った方が良いだろうと思ったのだが、


「ま、待ってくださーい! アレックスさんと、身長差があるので歩幅が……」


 俺が二歩で進める距離を、ティナは三歩必要らしく、小走りになってしまっていた。

 ご飯を食べた直後に走るのはどうかと思い、だがタバサも待たせているので、


「悪いな。失礼する」

「ふぇ? わっ! あわわわわ……こ、これは、憧れのお姫様抱っこ! えへへへー」


 ひょいっとティナを抱えると、急ぎ足で北の小屋へ。


「すまない。タバサ、呼んだか?」

「はい。というか、昨晩も呼んだのですが……結構、就寝は早いんですか?」

「そ、そうだな。こっちの生活は体力が居るからな」


 タバサが連絡してきたというのが何時頃かは分からないが、夜は人形たちも風呂へ入ったり就寝したりして、小屋の近くに居ないんだよな。

 というか、メイリンがフィーネのスキルで眠っていると言うのもあるし。

 昨日は、分身を鬼畜モードにはしなかったから、ブリジットやビビアナたちも無茶をせずに……って、こんな事を考えている場合ではなかったな。


「で、どうしたんだ? こんなに朝早く」

「そこまで早い時間ではありませんが……こほん。実はアレックスさんに謝らなければならない事があります。元々、二か月で魔族領から戻って来てもらう予定だったのですが、召喚魔法を使う賢者様が別件で暫く来れないと連絡がありまして」

「うーん。それは困ったな」

「はい。誠に申し訳ありません」


 フレイの街に戻れないとなると、エリーに何かあった場合、困る事があるかもしれない。

 いや、万が一の場合に備えてステラに来てもらっているから、最悪の事態は避けられるだろうが、思いも寄らない事だってあるだろうしな。

 幸い、ユーディットは天使族の村へ帰れるから、何かあったらヨハンナさんを頼ろうか。

 ……いや、出産までは時間もあるし、それまでには賢者さんが来ているだろうから、問題はフレイの街経由で家に帰ろうと思って居た女性陣だ。

 それぞれ奴隷から解放され、早く家に帰りたいだろうし、帰してあげたいからな。


「まぁタバサが悪い訳ではないだろうし、なるべく早く頼む……とだけ」

「畏まりました。一応、賢者様以外に召喚魔法を使える者が居ないか探してみるつもりです」

「わかった。すまないが、よろしく頼む」

「はい。……ところで、ティナは近くに居ませんか? 今の話を伝えておきたいのですが」

「ティナは……あ、すまん。抱いたままだった」


 ティナがかなり軽くて小さいからか、下ろすのを忘れて、ずっと抱きかかえたままでタバサと話してしまっていた。

 リディアのおんぶもそうだが、女性は皆軽いんだよな。

 そんな事を考えながら、ティナを床へ下ろそうとすると、


「ま、待ってください。出来れば、このままで……せ、せめて、あと少しだけ」

「は!? ちょ、ちょっとティナ!? それに、アレックスさんも、何をしているんですかっ!?」

「は、初めてなんです。だ、男性にこんな事をしてもらうの……なので、もう少しだけ堪能させて欲しくて」

「てぃ、ティナーっ! ちょ……あ、アレックスさんのアホぉぉぉっ! 何て事をぉぉぉっ! というか、そんな事をしながら通話魔法だなんて、何を考えて居るのよっ! この変態ぃぃぃっ!」


 何故かタバサが叫びだし、一方的に通話魔法が終了してしまった。

 タバサが叫びだした理由は不明だが、フレイの街へ帰るのが延期になってしまった事は、昼食で皆が集まった時に話そうか。


「ティナ。タバサは一体どうしたんだ?」

「え? わ、わかりません。一先ず、帰れないという話ですが、私……暫くアレックスさんのお世話になっても良いでしょうか」

「もちろんだ。ティナが悪い訳ではないからな」

「ありがとうございます! そ、それと、暫くこのままで居ても良いですか?」

「構わないが、作業もあるからな……おんぶはダメなのか?」

「おんぶ! ……足を挫いた女の子が、男の子におんぶしてもらって家に帰るのは鉄板! お、おんぶでも大丈夫です!」


 よく分からない事をいいながらも、ティナが構わないと言うので、リディアやエリーにしているのと同じように、ティナをおんぶしながら壁の拡張を行う事に。


「……あ、アレックスさんの手が私のお尻に。も、もっと内側でも良いのに……」


 ティナが小声で何か呟いている気がしたが、とりあえず作業を進め、


「アレックスさん。次は私ですからね?」

「旦那様。たまには、妾にもお願いします」


 リディアはともかく、何故かメイリンにまで、おんぶを求められてしまった。

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